2020/06/22
講演録
これからのBCP
「中長期的」な観点で、これからのBCPがどうあるべきか。BCPを言葉で説明すると、事業中断が起きそうな場合や、起きた場合でも、経営が望むレベル感で事業を速やかに再開させるための平時からの備えとなる。これを分解すると、人の安全安心を真っ先に守るための「ERP」(緊急時対応計画)、災害対策本部まわりの「CMP」(危機管理対応計画)、被災下で重要な事業・業務を代替手段などによって継続していくための“狭義”の「BCP」(事業継続計画)に分かれる。この“狭義”のBCPという観点で、とりわけ感染症においては、人を感染させないように業務スタイルをどう変えるか。在宅勤務に変えてしまうなど、予防的見地のBCPとなる点が一つの特徴となる。
ところで、リスクマネジメントやリスクアセスメントは、平時のものではないかと言われるが、全くそんなことはない。有事下においてもリスクアセスメントは非常に有効だ。そして、忘れてはならないのがリスクコミュニケーション。対策に変更がないという場合でも、従業員に継続の理由を伝える必要がある。どのように意思決定しているか分からない場合、従業員の側は非常に不安。取引先を含め、利害関係者に積極的に情報発信していくことが、感染症BCPでは地震や他の災害以上に重要になってくると思う。
これまで感染症BCPの話をしてきたが、これらはあくまでも感染症を意識した改善ポイントだ。オールハザードという考え方をすれば、いろんな事象に柔軟に活用できるBCPが求められる。その際には、合理的にシンプルに考えることがポイントになる。いろんなシナリオを考えすぎると、メンテナンスが不可能になる。また、細かく作ってしまうと、いざというときに使い道がなく、計画が硬直化してしまう。
ニューノーマルは、ごまかしが効かない時代になる。本質ではないところに付加価値を提供していたつもりになっていて、そこが改めて問われる時代になってきているのではないか。個人も同じで成果主義になる。zoom会議で発言しないと声が聞こえないので、やはり規律正しく動ける人とそうでない人、結果を出せる人とそうでない人ではっきりと結果が分かれてくる。
BCPもごまかしが効かない時代になってきている。BCPがうまくいっている企業は、作ったBCPが正解を示していたからではなく、スピーディーな意思決定や判断をしているからというものが多いと思っている。つまり、経営と現場、関係者を巻き込んで、こういう状況が起きたらどうするかということを、BCP策定の過程や訓練でしっかり議論している。逆に、そういったことを疎かにしてきた企業はだめになるのではないか。
また、平時と有事の境をなくす活動を意識していく必要がある。つまり、いつでもどこでも、どうやってでも働けるようになること、リスクマネジメントと危機管理の両輪でバランスよく回していくこと、そしてBCPの訓練を平時の業務に溶け込ませること。平時の活動のなかに有事が混在した状態を目指し、経営と現場が一丸となって考えていく。それがニューノーマルにおけるBCPや企業のあり方ではないかと思う。
(続く)
講演録の他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方