2016/05/06
誌面情報 vol39
岩手県災害対策本部の闘い
約5800人の死者・行方不明者を出した岩手県。県の災害対策本部は、被災状況も分からない中で闘い続けた。彼らが経験した試練は、間違いなく次の大災害でも大きな障壁として立ちはだかる。しかし今の災害対策本部には、当時中心となったメンバーは、既にいない。常に人事で担当が変わる日本の組織体制では、ある意味仕方がないことだろう。今、やるべきことは、彼らが災害対応で得た教訓を我が身のこととして学び取ることだ。岩手県前総合防災室室長の小山雄士氏、元防災危機管理監の越野修三氏、岩手医科大付属病院の秋冨慎司氏に、3.11の災害対応を通じて得られた教訓を聞いた。
(編集部注)この記事は、「リスク対策.com」2013年9月25日号(Vol.39)に掲載したものをWeb記事として再掲したものです。役職などは掲載当時のままです。(2016/05/06)
情報が無い中で対応する力
Q.3.11の発災当初、通信が途絶え、被災地の状況が分からない中で、越野さんはいかに災害対策本部の陣頭指揮を執られたのでしょう。
越野 あのような大災害の突発事案というのは、最初から情報が入るはずがないのです。しかし、やるべきことの目的、目標は明らかですから、それを達成するために、手持ちの資源をどうやって運用するかに意識を集中させました。
目的は人命最優先で、目標は一人でも多くの命を救うことです。この目的、目標に基づいて、何を重点に、どのように手持ちの資源を配分していくかを決めていったのです。
一方で、被災地の状況が分からないわけですから、被害状況をイメージするしかありません。テレビ画面から流れる映像をもとに、市町村はこういう状況に陥っているだろう、病院はこうなっているだろうと想像しながら対応を考えていきました。
同時に手持ちの資源も把握しなくてはいけません。いつも言うことですが、目的・目標を達成するためには状況を把握することが不可欠です。この状況を把握するというのは、被害の状況と、自分の手持ちの資源の両方が分かっていないとできないことなのです。
手持ちの資源については何度も自衛隊と協議し、演習も繰り返していましたから、どのくらいの部隊が支援に来るのかは事前に分かっていました。しかし、被災地については圧倒的に情報が不足していましたから、海岸沿いの病院が壊滅的な状況になっていることをイメージし、人命最優先の目的と一人でも多くの命を助けるという目標に向かって、病院に酸素吸入器や毛布、DMAT(災害派遣医療チーム)などのスタッフをヘリで送り届けることを最優先に行いました。食料の調達が多少遅れたとしても数日は生き延びることができますが、酸素吸入は一刻たりとも止めることはできません。低体温で死に至るケースもあります。こういう状況に対して真っ先に手を打たねばならない状況だったのです。
Q.すべての病院が同じような状況に陥っているわけではなかったと思います。医療班の指揮を執られた秋冨さんにお聞きしますが、連絡が取り合えない中でいかに支援する優先順位を決めたのですか?
秋冨 災害時には、腐ったような情報も山ほど入ってきます。助けが必要だ、人が死にそうだという情報から、どうでもいいようなデマまで。逆に、本当に被災している人は、助けてほしいという情報すら発信することができないのです。そういう声なき声にまで耳を傾け、その中から、災害対応に必要な情報を見極める情報のトリアージが必要になります。
ただし、基本として緊急時の状況判断は、「信頼度」「優先度」とを基に行うしかありません。信頼度が低い情報でも、命にかかわるような優先度が高い情報なら、それを信じて行動するしかない。実際に支援に行って空振りだったこともたくさんありました。それは仕方ないことです。
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方