2013/09/25
誌面情報 vol39
宮城県 津波対策のまちづくり
東日本大震災で1万人を超える犠牲者を出した宮城県では、「災害に強く安心して暮らせるまちづくり」を復興計画の基本理念に掲げて県土の再生を進めている。中でも最も重視しているのが津波からの人命の確保。その具体策として、「高台への住居移転」「津波からの防御施設と整備」を挙げている。被災市町村も地域特性に応じた津波対策を主眼とした復興計画を策定。これを受けて、防潮堤の整備や住宅団地の造成、災害復興住宅の建設などが各地で活発に行われている。
多重防御施設整備と高台移転が対応策
宮城県が震災復興計画で打ち出した津波から人命を守るまちづくりの基本方策は、①高台への住居移転、②津波からの防御施設整備―の2つ。これに避難(避難施設の整備を含む)を合わせて人命を確保しようとしている。
高台への住居移転は、主にリアス式海岸の三陸地域や県中部の石巻・松島地域などが対象。沿岸部に住んでいたのでは命が守れないとの考えに基づき、水産加工業や漁業が盛んな地域でありながら、職住分離を図り、高台に転居して沿岸部の職場に通うというもの。
津波からの防御施設整備は、防潮堤と高盛土の道路などによる多重防御を目指す。仙台市など仙台湾南部の平野部が対象で、東日本大震災のような大津波が襲ってきた場合でも、防潮堤とそれに並行した高盛土の道路や鉄道が、津波エネルギーを減衰させるとともに、到達時間を遅らせる。避難時間を長くすることで、高台や避難ビルなどに避難させ人命を守る考え方だ。 津波で被災した沿岸部の8市7町は、この高台移転か多重防御のどちらかあるいは両方を基本コンセプトに据えて、まちづくりを進めている。
高台移転宅地分譲と建築制限
高台への集団移転事業は、国の補助事業である「防災集団移転促進事業」「土地区画整理事業」とによって宅地を供給するもの。防災集団移転促進事業は5戸以上の団地化が要件。土地区画整理事業は分譲規模がより大きいもの。対象件数は前者が193カ所、後者が34カ所。分譲区画数は合わせて約1万戸に及ぶ。
津波災害の復興事業においては、県が設定する津波の浸水想定がベースとなる。浸水想定区域に指定された場所では、建物の新築ができないなどの建築制限が市町条例によりかかる。この規制が、集団移転などの大規模なまちづくりを下支えする。
自力で住宅を再建できない人たちは、市町村が整備する災害公営住宅に低額で入居できる。計画戸数は118地区1万5774戸(2013年8月31日現在)。
後は自力で再建する世帯が1万戸。県外避難者が約8000人いる。一方、津波の被災者は約4万世帯10万人おり、これらの施策でほぼ吸収できる見込み。
分譲地や災害公営住宅の建設用地は、高台の山地を削るなどして造成される。沿岸部には数mも地盤沈下して海になった地域もあり、削られた土が埋め立てにも利用されている。
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