2013/09/25
誌面情報 vol39
宮城県山元町復興のまちづくり
東日本大震災を契機に、被災した状況から元の状況(ゼロ)に復旧するのにとどまらず、“プラス”に発展させることを目指して復興のまちづくりに取り組む自治体がある。宮城県の山元町がそれだ。同町が被災前から抱えている最大の課題は人口減少。東日本大震災では町の約40%が津波にのみ込まれ、600人以上が犠牲となり、2000棟以上の家屋が全壊した。しかし、一見負としか思えない被災を好機ととらえ、住民の集団移転と中心市街地の形成などにより、災害に強く活力のある町に再生させようと取り組んでいる。
山元町のあらまし、津波被害状況
亘理郡山元町は、福島県境の宮城県南部、高速道「仙台東部道路」を使って仙台から車で約45分のところにある。町は南北11㎞、東西5㎞で面積は65㎢。沿岸部は低平地で西側が海抜300mの阿武隈山地。震災前の人口は1万6695人(2011年2月末現在)で、仙台市に勤務する人も多く、イチゴやりんご、ホッキ貝の特産地。
東日本大震災時、山元町では震度6強の揺れを観測。高さ12mの津波が襲来(過去最高は1981年宮城県沖地震時の2.5m)、これにより634人が犠牲となった。住宅被害は全壊2217棟、大規模半壊534棟、半壊551棟、一部損壊が1138棟。JR常磐線は町内の2駅をはじめ壊滅、69%の水田と畑地も45%が冠水した。ブランド品の仙台イチゴも塩害で栽培不能となり、磯浜漁港も壊滅、山元ホッキの水揚げも途絶した。役場庁舎は浸水を免れたが、耐震強度不足で使えなくなり、その後、建物を解体、現在はプレハブの仮庁舎の状態。1030戸の仮設住宅には今も2000人近く(今年7月末現在)が避難生活を余儀なくされている。
活力ある町づくり コンセプトに
山元町では、「人口減少」「少子高齢化」「にぎわいの創出」震災とが、前の町の主要な課題だった。1995年のピーク時に1万8815人だったのが、震災前の2011年には1万6695人まで減少。その後、震災による約630人の犠牲者と震災を契機にした人口転出が止まらず、現在は1万3777人(今年8月末現在)と、県内では女川町に続き人口減少率が高く、震災前より事態は深刻になっている。
町は、2011年12月に「山元町震災復興計画」をまとめている。
津波対策の基本的な考えは、防潮堤や高盛土道路等の多重防御施設の整備と高台への集団移転、これに避難が加わる。 多重防御は、防潮堤と高盛土構造の県道道により減災に努める。併せて防潮堤と高盛土道路の間に防災緑地帯(松などを植栽)を設けるほか、必要箇所に避難施設も整備する。
町が新たに目指す活力のあるまちづくりのグランドデザインは、コンパクトなまちづくり。JR常磐線を山側に約1㎞移設して2つの新駅を設け、町中央部の国立宮城病院近くの医療・福祉ゾーンとともに、3つの中心市街地を形成する。津波被害が甚大だった沿岸部の町民等の集団移転を促し、若者や高齢者にも住みやすい快適性や利便性を向上させ、町内への定住化を図る作戦。コンパクトシティによるまちづくりは、利便性向上による町のにぎわいの創出とともに、公共インフラのコスト縮減効果を見越したもの。
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方