2020/08/04
2020年8月号 豪雨対応
コロナと共存する「転禍為福のBCP」とは?
タイの事例から学ぶ企業の対応
では、今考えうる対応の選択肢は何か。今年4 月30 日にタイのジェトロ、JICA とで開催したタイの日系製造業向けセミナーの内容に基づいて話すと、タイは非常に多くの日系企業が進出するグローバルサプライチェーンの要。特にアジアのハブとして製造業、とりわけ自動車産業にとって重要な拠点となっている。
そのタイでも感染のリスクで多くの企業が操業停止となり、国も非常に強い制限をかけた。生産再開のタイミングは非常に難しい。国内での感染者は今出ておらず、一部自動車産業は再開しているが、サプライチェーン内の他の企業がどういう状況にあるのかをモニタリングしつつ、自分たちでどうするか決めなければならない。

対策のポイントとしては、従業員が安心して出勤できる状態であるかを確認することが大切。学校や介護施設が閉鎖されると、子供や親の世話のために出社できない。まずはそういう状況を調査すべき。操業再開だけを優先して、従業員やその家族の安全を確保しない企業は、ロイヤリティが下がり、優秀な人から辞めていく可能性がある。
また、親会社や地元自治体、政府から再開要請はあるが、拙速に再開してしまうと混乱する。海外の拠点長の使命は、本社や取引先からの圧力に対して折衝すること。自分たちが雇ったローカルの従業員を守るというモードに入らなければならない。海外の拠点長として、場合によっては本社を押し返してでもそういう対応をすべき。

従業員の雇用維持については、「完全」は難しい。BCPの観点から、優先の職種・タスクを特定し、その中核となる人員を優先的に残さなくてはいけない。どういうポジション・タスクの人が必要かを特定し、モチベーションを維持しておかないと、その人たちが自分から辞めてしまう。そうでない人員については場合によっては解雇のプログラムに乗せることも検討し始めなければならない。
タイでは、失業保険がおそらく日本より簡単に出るようなので、申請の手伝いをし、辞めてもらう場合には失業保険や手当付き解雇などのパッケージを用意すべき。そのほか、スプリットオペレーションやラインを組み替えて、職場で感染させないことも必要だ。
2020年8月号 豪雨対応の他の記事
- 【風水害の被災経験を生かす】西日本豪雨を乗り越えた珠玉の日本酒
- 【令和元年東日本台風から1年】予期せぬ堤防決壊 「地の利」を味方に迅速対応
- 日本企業のリスクマネジメントは機能したか?
- きのこの「ホクト」、獺祭の「旭酒造」の、まさかの被災経験
- コロナと共存する「転禍為福のBCP」とは?変化を見逃さず柔軟に危機対応、転換も恐れず
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方