クラウドへの移行はどの程度進むのか

図2は今後クラウドの利用がどの程度増えるか、回答者の見通しを尋ねた結果である。図の左側はパンデミック以前の状況、右側は今後2025年までの間の見通しであり、それぞれ事業所内(on premises)、パブリック・クラウド、プライベート・クラウド、ハイブリッド・クラウド(注4)という4種類のITインフラにおける、組織の業務量(workload)の分布を示している。

写真を拡大 図2. クラウド環境の活用に関する今後の見通し(出典:LogicMonitor / Evolution of IT Research Report)

このデータ上では、事業所内のデータセンターからクラウドへの移行がさほど急激に行われるとは考えられていないように見えるが、見方を変えれば、パンデミック前の状況で既に業務量の65%がクラウドで処理されているので、残された部分をクラウドに移行する必要性や緊急性があまり高くないのかもしれない。

別の設問では、回答者の87%が「COVID-19のパンデミックがクラウドへの移行を加速させた」(注5)と回答しているので、従来はクラウドに移行する必要があまりないと思われていた業務についても、パンデミックを契機としてクラウドに移行する方向になったという部分もあるのかもしれない。

図3は業務量の95%がクラウドに移行するのはいつ頃になりそうかを尋ねた結果である。地域によって若干の差があるものの、回答者の7割強が、今後5年くらいの間に業務量の95%がクラウドに移行すると考えているようである。

写真を拡大 図3. 業務量の95%がクラウドに移行する時期の見通し(出典:LogicMonitor / Evolution of IT Research Report)

筆者の個人的な興味としては業種別の内訳も知りたいところだが、本報告書には業種別のデータは掲載されていない。しかしながら9割以上の回答者が、最終的には業務量の95%以上がクラウドに移行すると考えていることは注目に値するであろう(注6)。パンデミックに対応するためにリモートワークを強いられたことによって、自宅や外出先などからアクセスしやすいクラウドの利便性がクローズアップされ、前述のように多くの組織でクラウドへの移行が加速されたこともあって、クラウドの利用が拡大していく流れは続いていくと考えられる。これは今回の調査対象に含まれていない地域においても恐らく同様であろう。

なお本稿では割愛させていただくが、本報告書ではIT管理業務の自動化やAIの活用、それによる雇用形態の変化に関する調査結果も掲載されており、特にIT部門やプロバイダーの方々にとっては興味深い内容なのではないかと思われるので、ご一読をお勧めしたい。

■ 報告書本文の入手先(PDF 12ページ/約7.2MB)
https://www.logicmonitor.com/resource/evolution-of-it

注1)原文では「tactics」となっており、これは一般的に「戦術」と訳される場合が多いが、本稿では文脈のニュアンスを考慮して「対応策」と訳した。

注2)回答者の78%が「会社全体がリモートワークに移行した」、13%が「リモートワークが選択できるが強制されていない」と回答しているので、回答者の組織の大部分がリモートワーク(在宅勤務を含む)を採用しているという背景がある。

注3)ITのモニタリングはLogicMonitor社の主戦場なので、当然ながらこの部分は本報告書でも強調されている。

注4)パブリック・クラウドとは複数のユーザーで共有されるクラウド環境(もちろんアクセス範囲はコントロールされ、個々のユーザーのデータの機密性は確保される)、プライベート・クラウドは特定ユーザーのためだけに構築されるクラウド環境、ハイブリッド・クラウドはこれらを組み合わせて利用する形態である。

注5)原文では次のようになっている: COVID-19 pandemic is causing organizations to acceleration their migration to the cloud

注6)図3で「Never」(つまり業務量の95%がクラウドに移行することはない)と「Don't Know」との合計が、どの地域においても10%を下回るため。