新たに出現したリスクとその影響（出典：『BDO Global Risk Landscape 2017』）

国際会計事務所 BDO（注 1） は 2017 年 5 月に調査報告書「BDO Global Risk Landscape 2017」を発表した（以下「本報告書」と略記）。これは世界 55 カ国の経営層 500 人を対象に行った調査の結果に基づいて、新たに出現したリスク（emerging risk）を含む広範囲なリスクに対して、世界の企業経営者がどのように認識しているかを捉えようとしたものである（注 2）。

本報告書の中で最も象徴的なデータのひとつは、新たに出現したリスクとその影響に対する経営層の認識をまとめたもので、本報告書では上の図のようなグラフで示されているが、本項ではレイアウトの都合上、図 1～3 に分解して以下に示す（それぞれ横軸の目盛りが異なることに注意されたい）。

図 1, 最も備えができていないリスク
図 2, 新たに出現したリスクのうち最も顕著なもの
図 3, 今後 10 年間に最も影響が大きいと思われる、リスクのトレンド （出所はいずれも『BDO Global Risk Landscape 2017』）


ここで「破壊的テクノロジー（disruptive technologies）」について、本報告書の中では Internet of Things（IoT）、自律走行車、クラウド・コンピューティング、3D プリンターなどが例示されているが、これらは産業構造を大きく変えるポテンシャルを持っており、多大な利益をもたらす可能性がある反面、組織がうまく適応できなかった場合のリスクも大きいという、両刃の剣であることが指摘されている。

また「規制リスク（regulatory risk）」については、2008 年に発生した世界的規模の金融危機以来、特に金融サービス企業を中心に、様々な規制がビジネスに影響を与えるようになっており、社会的にコンプライアンスが非常に重視されていること、また違反した場合に企業のレピュテーションに致命的なダメージを与えるという見解が示されている。

一方で、経営層が直面する最大のチャレンジとして最も多く上げられたのは「コスト管理」（40%）と「新しい価値の創造」（26%）だったという。本報告書の最後の章のタイトルは「利益に対するプレッシャーは主要な関心であり続ける（Pressure on margins remains a key concern）」となっており、経済成長が鈍化し、規制が強化され、競争が激化し、かつ原料や燃料の価格が流動的な中で、いかに利益を確保するかが経営層に求められているという事である。

いかにも会計事務所らしい構成という感じもするが、企業におけるリスクマネジメントの目的は、単にリスクを減らすためでなく利益の追求にあるという考え方が、回答者である経営層の根底にあるからこそ、このような結果になっていると言えるのではないだろうか。

本報告書は、調査データの分析と論説記事のページが交互に並べられた構成となっており、他にも地政学的リスクや、世界的なサプライチェーンなど、興味深いテーマが扱われているので、ご一読をお勧めしたい。


■ 報告書本文の入手先（PDF 32 ページ／約 18.6 MB）（注 3）
https://raconteur.uberflip.com/i/825402-bdo-global-risk-landscape-2017/18

注 1）BDO はベルギーに本拠地を置く国際会計事務所で、世界の 4 大会計事務所と呼ばれる Ernst & Young、Deloitte Touche Tohmatsu、KPMG、PricewaterhouseCoopers に次ぐ規模で、158 カ国でサービスを提供している。 https://www.bdo.global/en-gb/home

注 2）本報告書の中には調査対象について具体的な記述がないが、BDO の Web サイトに掲載されている本報告書の紹介記事の中に、「500 c-suite and senior level experts across 55 countries」という記述がある（https://www.bdo.fi/en-gb/insights/publications/surveys/global-risk-landscape-2017）。ちなみに c-suite とは、CEO や CFO など「C」から始まる経営層の役職の総称で、英語圏でよく使われる表現である。

注 3）報告書を制作した出版社である Raconteur 社の Web サイトからダウンロードできるようになっている。

（了）