■熱波対策に向けたBCPの必要性

事業への影響を見てみましょう。以下の想定は十分なエビデンスや根拠があるわけではありませんが、こうした内容を語るのにすでにエビデンスがそろっているようなら、私たちは現在進行形で大変な危機に直面していることになるでしょう。危機を先取りするための想定、BCP的な想定と捉えてください。

まず、40℃台の高温と高湿度が何日も続けば、熱中症だけでなく精神にも深刻なダメージを与えます。この結果、業務の質や生産性が低下し、心身の不調(うつ病や自殺予備軍も含め)で欠勤する人が増えます。つまり、企業の人手不足に拍車がかかることになります。

暑さで屋外作業ができなくなる(写真:写真AC)

次に、夏場は業種によって屋内屋外問わず、高温のために活動ができなくなります。例えばビルの建設現場や道路工事など。鉄材に触れればやけどするほど熱く、肌を出して作業をしていればすぐに火膨れができてしまいます。そのため土木建設などは1年のうちの工期を短縮せざるをえなくなります。ガスコンロを使う飲食業なども、厨房などはかなりの高温になるため、健康と労務管理、そして設備の各面を根本から見直す必要があります。

災害級の暑さのもとでは日中の外出も命取り(視力や皮膚への影響、熱中症、脱水症状など)になりますから、コロナの時と同じように、通販やデリバリーが中心になるかもしれません。あるいは日中の街中での消費の減少をカバーするために、ショッピングなどは夜型の消費行動を取るようになることも考えられます。

エアコンのフル稼働などで電力需要もひっ迫(写真:写真AC)

多くの機器や設備に囲まれた工場などでは、外の気温は40℃でも、室内は50℃以上の高温になります。空冷式のコンプレッサーその他、熱に弱い装置などは停止や故障が頻発するでしょう。猛暑による鉄道への影響(レールの歪みや車両故障による遅延・運休)はすでに山形新幹線やJR北海道で見られますが、これが大都会で起これば通勤や営業活動に多大な支障が出ることは間違いありません。

夏場の電力需要のひっ迫による大停電や計画停電も起こりやすくなるでしょう。熱に弱い原材料・製品・商品、農作物、酪農、家畜もダメージを受け、中長期的な視点で早めに手を打たないと、生産が激減してしまう可能性もあります。

これらに共通して言えることは、企業はいずれ「40~45℃」を見据えた熱波対策のためのBCP策定を迫られることです。そしてそれは、これまでのBCPのノウハウでは通用しない側面も多々含むことでしょう。

熱波が支配する社会を考えるとき(写真:写真AC)

私たちは、夏場に40℃を超えるのが常態化するであろう熱波の支配する社会・経済をどう守り、維持していくのかを真剣に考えなくてはならない時期に来ています。この対応を先送りすれば、経済はコロナの何倍も大きな痛手を受けることでしょう。

こんな考えは単なる妄想であってほしいと自分でも思うのですが、調べれば調べるほど、その程度の話では済みそうにありません。