2020/09/03
昆正和の気候クライシスとBCP
■熱波対策に向けたBCPの必要性
事業への影響を見てみましょう。以下の想定は十分なエビデンスや根拠があるわけではありませんが、こうした内容を語るのにすでにエビデンスがそろっているようなら、私たちは現在進行形で大変な危機に直面していることになるでしょう。危機を先取りするための想定、BCP的な想定と捉えてください。
まず、40℃台の高温と高湿度が何日も続けば、熱中症だけでなく精神にも深刻なダメージを与えます。この結果、業務の質や生産性が低下し、心身の不調(うつ病や自殺予備軍も含め)で欠勤する人が増えます。つまり、企業の人手不足に拍車がかかることになります。

次に、夏場は業種によって屋内屋外問わず、高温のために活動ができなくなります。例えばビルの建設現場や道路工事など。鉄材に触れればやけどするほど熱く、肌を出して作業をしていればすぐに火膨れができてしまいます。そのため土木建設などは1年のうちの工期を短縮せざるをえなくなります。ガスコンロを使う飲食業なども、厨房などはかなりの高温になるため、健康と労務管理、そして設備の各面を根本から見直す必要があります。
災害級の暑さのもとでは日中の外出も命取り(視力や皮膚への影響、熱中症、脱水症状など)になりますから、コロナの時と同じように、通販やデリバリーが中心になるかもしれません。あるいは日中の街中での消費の減少をカバーするために、ショッピングなどは夜型の消費行動を取るようになることも考えられます。

多くの機器や設備に囲まれた工場などでは、外の気温は40℃でも、室内は50℃以上の高温になります。空冷式のコンプレッサーその他、熱に弱い装置などは停止や故障が頻発するでしょう。猛暑による鉄道への影響(レールの歪みや車両故障による遅延・運休)はすでに山形新幹線やJR北海道で見られますが、これが大都会で起これば通勤や営業活動に多大な支障が出ることは間違いありません。
夏場の電力需要のひっ迫による大停電や計画停電も起こりやすくなるでしょう。熱に弱い原材料・製品・商品、農作物、酪農、家畜もダメージを受け、中長期的な視点で早めに手を打たないと、生産が激減してしまう可能性もあります。
これらに共通して言えることは、企業はいずれ「40~45℃」を見据えた熱波対策のためのBCP策定を迫られることです。そしてそれは、これまでのBCPのノウハウでは通用しない側面も多々含むことでしょう。

私たちは、夏場に40℃を超えるのが常態化するであろう熱波の支配する社会・経済をどう守り、維持していくのかを真剣に考えなくてはならない時期に来ています。この対応を先送りすれば、経済はコロナの何倍も大きな痛手を受けることでしょう。
こんな考えは単なる妄想であってほしいと自分でも思うのですが、調べれば調べるほど、その程度の話では済みそうにありません。
昆正和の気候クライシスとBCPの他の記事
おすすめ記事
-
ランサムウェアの脅威、地域新聞を直撃
地域新聞「長野日報」を発行する長野日報社(長野県諏訪市、村上智仙代表取締役社長)は、2023年12月にランサムウェアに感染した。ウイルスは紙面作成システム用のサーバーとそのネットワークに含まれるパソコンに拡大。当初より「金銭的な取引」には応じず、全面的な復旧まで2カ月を要した。ページを半減するなど特別体制でなんとか新聞の発行は維持できたが、被害額は数千万に上った。
2025/07/10
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/07/08
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/07/05
-
-
-
-
-
-
「ビジネスイネーブラー」へ進化するセキュリティ組織
昨年、累計出品数が40億を突破し、流通取引総額が1兆円を超えたフリマアプリ「メルカリ」。オンラインサービス上では日々膨大な数の取引が行われています。顧客の利便性や従業員の生産性を落とさず、安全と信頼を高めるセキュリティ戦略について、執行役員CISOの市原尚久氏に聞きました。
2025/06/29
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方