写真は9月16日の首相記者会見時のもの(提供:第一国会記者クラブ・電気新聞)

9月14日、官房長官として最後の定例記者会見に立った現・菅義偉首相。その会見では、政府の危機管理力について多くの質問がありました。やり取りの中にリスクマネジャー、危機管理担当者に役立つ情報があると感じたことから、今回は菅氏の官房長官としての最後の会見内容を考察します。

記者の誘導に乗らず自分の土俵に持ってくる

記者:政権のスポークスマンとしてどういった心がけで臨んできたのか。印象に残る会見は何か。

官房長官:午前、午後の会見に加えて危機時の会見で3200回以上行ってきた。政府の立場や見解を正確に発信する貴重な機会。丁寧に誠実に臨んできたと思っている。全てが印象に残る会見だ。

【解説】記者の誘導に乗らず、印象に残る会見を特定していない点がよいといえます。そこが見出しになってしまうからです。ミスリードの原因にもなります。


記者:菅氏の師である梶山静六元官房長官をある意味を超えることができたと思える点があるといえるか。

官房長官:当選直後に梶山先生に言われたことは「政治家の仕事は国民の食い扶持を探すことだ。役人の言葉を鵜呑みにせず自分の頭で考えろ」。これを念頭に全力で取り組んできた。まだまだ足りないところがある。謙虚に耳を傾けながらやっていきたい。

【解説】記者の誘導に乗らず、切り返して自分の信念を述べる方向転換を図っています。自分の土俵に乗せている点が優れています。


記者:危機管理について、これまで最大の危機と感じたのはいつか。

官房長官:危機管理に関して重視したことは縦割りを排除し、政府一丸となっていくこと。官房長官として危機管理は最優先課題として取り組んできた。振り返ると、アルジェリアの人質事件、度重なる災害、北朝鮮ミサイル問題など数多くの緊急対応をしてきた。先頭に立って対応してきたと思っている。

【解説】これは質問がうまい。「印象に残る会見」ではなく「最大の危機と感じた時」となると、答えないわけにはいきません。それでも、一つだけでなく、いくつか挙げています。のちの回答とも一致しています。安全保障、災害、在外邦人の安全。「先頭に立って」と添えることで、自分のリーダーシップもさりげなくアピールしています。これは今まではあまりなかった光景です。リーダーを意識したことが分かります。


記者:次の内閣に求められる危機管理とは。

官房長官:国民の生命と平和な暮らしを守ることは政府に課された最大の使命。いついかなる時も危機管理に緊張感をもって万全の態勢であたるのは当然のこと。安全保障上の脅威、自然災害、海外に在住する邦人へのテロの危険など、さまざまな危機、緊急事態には緊張感を持ち、的確に救出しなければならない。

【解説】危機管理においては「何を守るのか」が最も重要な判断基準となります。その意味で「国民の生命」「平和な暮らし」を最初にストレートに持ってきたことで、何を守るのかという重要ポイントを強調しています。