2020/12/11
事例から学ぶ

リスクマネジメントを経営の意思決定プロセスにしっかり位置付ける――BCPの実効性を高めるために不可欠な取り組みだが、タテ割構造の組織において、それは時に容易ではない。むしろ顧客や社員の顔が見える中小企業に学ぶべきことが多いのもまた一つの側面だ。印刷会社の株式会社マルワ(名古屋市天白区)は、事業継続にかかるリスクをISO、ISMS、BCPなどの指標と手法を使って洗い出し、解決に向けた取り組みの一つ一つをSDGsのゴールに照らしてセルフチェック、自社の目指す姿を達成するために必要なESG活動として毎年の経営計画に落とし込んでいる。それをまわしているのは、社員全員の実践と協力だ。
株式会社マルワ
名古屋市天白区
❶リスクマネジメントを経営の中に明確に位置付け
ISOやISMS、BCPなどの指標・手法を用いて事業リスクを見える化。解決に向けた活動を毎年の経営計画に明記
❷リスク対策を企業価値向上のESG活動として重点化
個々の活動をSDGsのゴールに照らしてセルフチェック。2030年のビジョン達成に向け、自社の企業価値を高める取り組みと重ねる
❸リスク対策を含んだESG活動を社員の全員参加で運営
組織体制の整備、綿密なスケジューリング、コミュニケーションの機会確保によってESG活動を日常に溶け込ませることで社員の全員参加を実現
日々、さまざまな顧客からさまざまな原稿データが届く。調達から編集、制作、校正、印刷、納品まで、社内・社外を問わず刻々と交わされる情報は量・質ともに膨大だ。供給者責任において、ITセキュリティーは最重要事項といっても過言ではない。
不正アクセスを防ぐため全端末に対策ソフトを導入して常時監視、USBメモリなどの記憶媒体は直接個々のパソコンにつながない。オフィス中央に設置した専用のパソコンでウイルス検査を行い、安全を確かめたのちデータを取り出す。検査結果は全てデータ提供元に報告する決まりだ。
データの破損や紛失、パソコンの不具合に備えては、編集・制作から印刷までの過程にある原稿や見本刷り、関連仕様書や伝票、積算などを社員が作業後に毎日バックアップする。作業途中のデータなど一部を除き、個人のパソコンには残さない。保存場所はNAS(ネットワーク対応HDD)と外付けHDDを使用し、社内サーバーやクラウド上にも格納しないのが原則だ。
「品質」「環境」「ISMS」でISOを取得
2001年に品質管理のISO9001、翌02年に環境管理のISO14001を取得したのに続き、05年にISMS(情報セキュリティーマネジメントシステム)でもISO27001を取得。社内のITルールを簡潔にまとめて配布したり、注意喚起を促すポスターを壁に掲示したりして啓発に努めている。
「それこそ10年以上やっているので、社員はむしろ『これが普通』と思って行動している。ただ、新しいルールを導入する際などは、定着までに多少の時間がかかります。そこはしつこく説明していくしかない」。ISMS担当の若井朋宏さんは説明する。
その点、日常的なコミュニケーションの仕掛けは豊富だ。社内SNSや社内勉強会といった場をフル活用して説明するほか、ITリテラシーの向上を目的に毎月1回A4判の情報セキュリティー通信『インフォぷりん』を発行。旬の「時事ネタ」も取り入れて、社員だけでなく顧客にも配布している。
例えば新型コロナウイルス感染が拡大してきた今年の3月号であれば、在宅ワーク時のセキュリティーリスクとその対策がテーマだ【下記参照】。
●毎月発行する情報セキュリティー通信「インフォぷりん」の前期テーマ
9月●パスワード設定のコツ(2019年版)
10月●クレジット情報が漏えいしたら…
11月●印刷物作成(納品)にともなうPDFデータ提供について
12月●マルウェア「EMOTET」にご注意ください!
1月●海外でスマホを使う時に注意すること
2月●不要になったパソコンの正しい処分方法
3月●在宅ワークの情報セキュリティーリスクと対策
4月●WEB会議のリスクについて
5月●リンク先の安全を確認しましょう
6月●個人情報保護法改正で変わる企業の対応について
7月●個人情報の適切な管理2020 ① ~個人情報の定義~
8月●個人情報の適切な管理2020 ②③ ~取得・利用の制限~
https://www.risktaisaku.com/feature/bcp-lreaders
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方