第127回:公共事業に関する組織のレジリエンスを測定するためのアンケート調査例
Scott Somers / Measuring Resilience Potential: An Adaptive Strategy for Organizational Crisis Planning
合同会社 Office SRC/
代表
田代 邦幸
田代 邦幸
自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005年より(株)インターリスク総研、(株)サイエンスクラフト、ミネルヴァベリタス(株)にて事業継続マネジメント(BCM)や災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して2020年に合同会社Office SRCを設立。引き続き同分野のコンサルティングに従事する傍ら、The Business Continuity Institute(BCI)日本支部事務局としての活動などを通して、BCMの普及啓発にも積極的に取り組んでいる。国際危機管理学会(TIEMS)日本支部理事。一般社団法人レジリエンス協会幹事(組織レジリエンス研究会座長)。環境経営学会幹事(企業の気候変動に対する「適応」研究委員会メンバー)。政府会計学会会員(社会リスク研究部会メンバー)。
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今回紹介させていただく論文(注1)はアリゾナ州立大学教授のScott Somers氏が2009年に発表したものである。ちなみにSomers氏はアリゾナ州フェニックス市の消防局や、FEMA(注2)が都市捜索救助のために設置したタスクフォースの1つである「AZ-TF1」などで、公共安全や緊急事態管理に関する20年以上の実務経験を持っている(注3)。
この論文は、タイトルにもある通り、組織のレジリエンスを測定するための手法の開発を試みたものである。なお本論文の著者は、一般的に組織のレジリエンスが明らかになるのは何らかの危機的状況に直面した後であることから、その手法を「Organizational Resilience Potential Scale」(略称ORPS)すなわち組織のレジリエンスのポテンシャルを測定するための指標と呼んでおり、これによって測定されるのは組織の潜在的な(latent)レジリエンスである、という立場をとっている。
レジリエンスに関してこのような表現をするかどうかは議論が分かれるであろう。レジリエンスについては特に定まった定義がなく、多くの論文などによる多様な定義が混在している状況ではあるが、それらの多様な定義の間でも、外部からの影響に対応する能力であることはおおむね共通していると思われる。したがって、レジリエンスとはそもそも外部からの影響を受けるまでは発揮されない、潜在的なものである。このように考えれば、他の多くの論文においては、レジリエンスについて「潜在的な」とか「ポテンシャル」などといった表現は使われていないものの、それらの論文において論じられているレジリエンスと、本論文が対象としている「潜在的なレジリエンス」や「レジリエンスのポテンシャル」は同じものと考えてよいであろう。
さて前置きが長くなったが、本論文では前述のORPSを用いて、米国のアリゾナ州、ニューメキシコ州、オクラホマ州、テキサス州(注4)で公共事業を提供している142の組織を対象として調査を実施し、その結果を分析した結果が示されている。調査対象として公共事業が選ばれている理由は、公共事業のレジリエンスに関する研究が少ないからである(これは2009年当時の話なので、現在は増えているかもしれない)。調査方法は各組織を代表する上級管理職に対してアンケート質問票を郵送する形で行われ、96の組織から回答が得られている。