2018/02/19
中小企業のBCP見直しのポイントはここだ!
2)BCPの見直しに向けた考え方~元請け企業の場合
(ア)事態を速やかに把握する
地震や感染症などの事象であれば事態を速やかに把握することは容易であるが、その他の要因により機能停止が大量に発生することがある。2011年に京都市で発生した「水道管からの漏水により隣接するガス管が破損し、ガス供給が停止した事案」などはその一例である(※)。この事案では、ガスが漏えいし、消防法23条の2に基づき火災警戒区域が設定され、ガス器具の使用が制限される事態に発展した。影響はガスで1万3千世帯、水道が1500世帯に及んだ。
※…事故に関する詳細は京都市水道局の公表資料に基づく。
http://www.city.kyoto.lg.jp/suido/page/0000103480.html
経営者がこのような事態の発生をいち早く認識しないと、回復に向けた活動にも影響が出る可能性がある。例えば、ある元請け企業では、発注元と連携して、発注元が管理するコールセンターへの入電数が一時間当たりで設定された目安を超えた場合は、自動的に警戒態勢に移行し、発注元と元請けの両者で状況を確認するとともに、経営層にも連絡が届く仕組みになっている。
設備工事業の場合、電力会社と施工会社、ガス会社と施工会社のように、特定の発注元と元請けが普段から緊密に連携していることが多い。このような業態であれば、緊急事態の把握でも緊密に連携する仕組みを検討しやすい。
(イ)施工部隊を急激に増強する
通常をはるかに上回る需要が発生する事態に対応するためには、通常の供給体制に加えて、通常のオペレーションには入っていない方策も講じることで、供給を急増させる方がよりよい。この方策を実現可能なように準備するのは経営層の責任範囲である。
元請けの事業範囲が全国であれば、事案の影響が発生していないエリアから応援部隊を送りこむ選択肢がとりうる。また、事業範囲が特定エリアに限られているのであれば、事業エリアが重複しない同業他社に応援を要請することが考えられる。事業内容によっては、事業エリアが重複する同業他社間の支援もありうるが、極力自社が主導的な立場を取れる仕組みを用意する。
例えば、東日本大震災において、仙台市ガス局は、一般社団法人日本ガス協会を通じて全国の都市ガス事業者49社から延べ7万2千人の応援要員の派遣を受け入れている(※)。このような仕組みが業界団体で整備されているのであれば、積極的な活用方策をBCPに組み込んでおくことが事業継続上不可欠である。連絡手段、要請の書式、費用負担などは事前に協定などの形で合意し、自社のBCPにも組み込まなければ、迅速な対応を妨げることになる。
※…事故に関する詳細は仙台市ガス局の公表資料に基づく
http://www.gas.city.sendai.jp/top/info/2013/05/001936.php
(ウ)受援計画を策定する
他エリアからの応援部隊の受け入れを事業継続に向けた方針として採用するのであれば、この応援部隊の生活を維持し、有効に活躍できる場面を設定するのは、応援を受ける事業者の責任である。
経験則では、応援部隊を100とした場合、応援部隊の生活を維持し、その他の調整を行うために15~20程度の人員を必要とする。応援部隊も来援直後は精神力で乗り切れるが、その後は極力温食を配食し、安心して排泄と睡眠ができる環境を整えなければ、事故発生の原因となる。大規模な支援部隊受け入れの経験がない会社の計画は、この点で検討の余地が大きいことがある。
次に、有効に活躍できる場面の設定であるが、これは受け入れから始まる。支援部隊第一陣の受け入れは、経営陣が自ら現場に立つべきである。この姿勢が自社と支援部隊のモチベーション向上につながる。来援した要員に実力を十分に発揮してもらうためには、欠かせないプロセスと考える。
遠隔地からの応援部隊の活躍を妨げる要因の一つとして、地名が読めないということがある。個人的な経験だが、関東出身の筆者は、急な応援依頼で愛知県に出張した際、「知立」(ちりゅう)、「弥富」(やとみ)、「海部郡」(あまぐん)などの自治体名や「にーよんぱー」(国道248号線)などの通称が分からず、困ったことがある。業務を行う現場は極力固定し、伝票には正式名を記入し、地名にはふりがなをふり、応援部隊が現場に入る一日目は自社の社員が同行するなどの対応は検討しておく方がよい。
最後に、応援に来ていただいた要員は、一人残らず氏名を確実に確認し、後日感謝の意を伝えることができる状態になれば、感謝状を贈呈するなどの対応を用意する。後日感謝状を出したいが、氏名が分からなくなったため、支援を受けた事業者に照会するなどのドタバタは避けたいものである。
中小企業のBCP見直しのポイントはここだ!の他の記事
- 第3回 生コンクリート製造業(下)~協同組合と連携する場合~
- 第2回 生コンクリート製造業(上)~災害復旧に大きな役割を果たす生コン。BCPの課題は?~
- 第1回 設備工事業の場合 ~元請け、協力企業の両面から考える~
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方