第3回 生コンクリート製造業(下)~協同組合と連携する場合~
周辺事業への参入を検討することも重要

小山 和博
外食業、会計事務所勤務を経て、(株)インターリスク総研にて 2007 ~ 2017年の間、事業継続、危機管理、労働安全衛生、事故防止、組織文化に関するコンサルティングに従事。2017 年よりPwC総合研究所に参画し、引き続き同分野の調査研究、研修、コンサルティングを行っている。
2018/05/31
中小企業のBCP見直しのポイントはここだ!
小山 和博
外食業、会計事務所勤務を経て、(株)インターリスク総研にて 2007 ~ 2017年の間、事業継続、危機管理、労働安全衛生、事故防止、組織文化に関するコンサルティングに従事。2017 年よりPwC総合研究所に参画し、引き続き同分野の調査研究、研修、コンサルティングを行っている。
※前回の連載はこちらから
■中小企業のBCP見直しのポイントはここだ!
第2回 生コンクリート製造業(上)~災害復旧に大きな役割を果たす生コン。BCPの課題は?~
http://www.risktaisaku.com/articles/-/6058
次に、協同組合に加入している事業者における対応を検討する。
協同組合との連携により事業を展開していく場合は、協同組合の中で製造、品質保証、営業の仕組みを回復する必要があり、個社のBCPは協同組合全体のBCPの下部文書としての位置づけになる。
協同組合の場合、個社だけで考えるよりも選択肢は豊富になる。組合員企業からの応援要員の派遣、組合員企業間における設備、検査器具の貸し借り、検査室業務の代行などの選択肢が取れるからである。
また、生コンクリート製造業の協同組合の場合は、共同配送などの関係で事務局を独自に設置していることが多く、この点でも情報収集などで有利に働くことが多い。加えて、配送部門を別会社とすることや共同配送が一般的な地域では、配送部門についても動ける運送会社が適宜対応することができる。
一方、意思決定コストは上がる。協同組合の場合、理事長の一存で決められることは少なく、理事会や総会を適宜開催しなければならないためである。
このような特徴を踏まえ、生コンクリート製造業における協同組合のBCPを見直す場合のポイントをいくつか示す。
(ア) 事務局が確認する情報を事前に明確にしておく
協同組合において何らかの事業中断が広域に発生した場合、協同組合の事務局は組合員企業に対し被害状況を確認することになるが、特に初動対応の時期において、すべての被害を網羅的に細かく確認しようとしても意味がない。
ここでポイントとなるのは、協同組合からの支援が必要かどうかを判定するために必要な情報の確認項目とその粒度を事前に特定しておくことである。その報告の様式を揃えて、組合員企業のBCPに盛り込む。
例えば、以下のような項目は協同組合の支援が必要かどうかの判断に必要になることが多い。
これも最初の報告にあたっては細かい情報を含まない方が都合がよい。詳細は組合からの支援を決定した後に確認する方がよいのである。
なぜなら広域に業務支障が生じている状況では、通信にも支障が出ていることが多く、伝達する情報量はなるべく少ない方が迅速な伝達に資するからである。
「小山生コンです。うちは配送が×で、安否は確認中、製造と検査は動けます」といったように伝達する情報をシンプルに、かつ協同組合での判断に必要な形で加工する仕組みを導入しておくと協同組合としての判断を迅速に下す助けになる。
(イ) 組合の意思決定の仕組みの代替手段をルール化する
協同組合の意思決定は、組合総会の承認と授権に基づいて理事会が行うものであり、その枠の中で理事長、副理事長、代表理事などが選任されている。協同組合における意思決定はどうしても時間がかかる。組合員といっても各社は独立した経営者であり、組合の決定といっても、直ちに実行されることの方が少ないような組合も珍しくないようである。
とはいえ、生コンクリート製造業の協同組合の場合は、共同受注の仕組みが整っているため、何らかの事案で広い範囲の業務に支障が生じた場合は、速やかに対応しなければならない。特に組織率が低迷しているエリアにおける協同組合の機能不全は、アウトの事業者を利することになり、長い目でみれば協同組合自身の首を絞める結果になりかねない。
とすると、協同組合での通常の意思決定ができない場合における判断権の所在、通常の判断権者が対応できない場合の代行順位については事前に定めておくことが重要である。
しかも、BCPだけではなく組合の規約にも盛り込んで総会による承認を受けておく必要がある。この規約変更が行われていないと、いくらBCPに書いておいても協同組合としての意思決定としては十分ではない。
また理事会の召集手続きに関する条文には、緊急時は一週間前の告知を不要とするなどの特例措置を規約に組み込んでおくことが重要である。
(ウ) 組合の独自事業の早期回復
生コンクリート製造業の協同組合は、共同受注以外にも共同試験場を保有していることがある。この試験結果は、各社の品質保証の要であることも多いため、早急な回復を図る必要がある。
この点、なるべく被害が出ないように、装置や器具を適切に保管・固定・管理するとともに、万一被害が出た場合に備え、近隣の協同組合等と連携して早期の機能回復を図る準備の重要性は、単独で事業継続を検討する場合と同様である。
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