(エ)日頃から協力会社の状態を詳細に把握する

応援部隊を受け入れるか否かにかかわらず、最終的には自社がお客様に提供している施工部隊の奮闘なくして、事業は継続できない。とすると、施工部隊を構成する協力会社の状態を日頃から把握しておくことは、緊急事態における業務継続の前提となる。

従業員数、所在地などの基本的な情報は、協力会社の選定において確認しているはずだが、調達部門が確認している会社では、受け入れ時のみの確認に留まり、その後の確認がないことがある。また、現場の工事部門が確認している会社では、自社が発注している範囲でしか情報を確認していないことがある。極力、従業員の具体的な氏名、業務用車両の台数、施工可能な範囲といった能力の部分は、変化が発生した段階で協力会社から届け出てもらうようにした方がよい。届け出はメールでもよいが、極力簡単に必要な情報を過不足なく収集する観点では、やはり書式にしておくほうが無難である。

この点、従業員に関しては、すでに社会保険への加入適正化に関する国土交通省及び厚生労働省からの強い要請に従って、下請け企業が従業員の年金番号や社会保険への加入状況などを報告する仕組みが整っている企業も珍しくないと思われる。また、業務用車両については、協力会社から業務用車両の車検及び任意保険の加入状況を報告させる仕組みを通じて、事業継続に必要な資源の状況を把握することができる。

下請け企業において車検切れや任意保険未加入などが仮にあれば、事故が発生した場合、不意の損害が元請け企業にも発生しかねないことを考えると、これは当然に行っておくべきレベルの取り組みである。大手の元請け企業であれば、自社グループ内の保険代理店を介した保険加入を協力会社に勧めることで、リスク管理の適正化と自社の収益源の多様化の一挙両得を狙う取組みは当たり前のように行われている。

BCPというと緊急事態を乗り切るために行う特別な取組みと思われがちだが、日頃の業務運営の中に業務継続のために必要な情報を確保する手順を埋め込んでおく方が実効性を確保できる。もちろんこれらの情報は、緊急事態においても活用できるように保存し、BCPにも組み込むことが重要である。

(オ)連絡先と連絡手段を複数確保する

連絡先と連絡手段を複数確保することは基本であるが、建設業では、携帯電話一本で連絡を行っていることが多い。連絡先と連絡手段は極力複数確保しておくようにする。

それも、携帯電話と固定電話という音声通話のみで連絡先と連絡手段を複数確保するよりも、テキストチャットなど音声通話とは異なる連絡手段を日頃の業務においても活用していくようにしたほうが、緊急時に連絡を取りやすく、また日頃の業務においても効率化につなげることができる。

テキストチャットとして従業員が日頃から使っているアプリの場合は、プライベートと業務の切り分けが難しい可能性もあるが、「ビジネス チャット」などで検索すれば、検討すべきアプリは容易に把握できるだろう。

(カ)緊急事態では見通しをなるべく早く示す仕組みを作る

協力会社から元請け企業に対し、緊急時に寄せられる不満の一つとして、「連絡が遅い割に、早くしろ早くしろと言われること」がある。
元請け企業が方針を決定した後も、元請け企業内で社内の複数のプロセスを経るため、元請け企業から協力会社に連絡が届くまでには、時間がかかる。加えて、協力会社も元請け企業から降ろされた方針を具体的に運用できる体制を整えるまでには時間がかかる。

緊急事態において事業継続にむけた方針を検討するプロセスの中には、この実行までの準備時間を考慮して、なるべく早い段階で社外に見通しを示す資料を作成する手順を組み込んでおくべきである。その手順には、社外とのコミュニケーションを担当する部署(広報、法務、渉外など)における内容検討を組み込んでおく。ビジネスを担当する部門だけで社外に提供する資料を作成すると思わぬ事態を引き起こすこともある。緊急事態だからこそ、さらなる状況の悪化を防ぐための手順を組み込んでおくのである。

3)BCPの見直しに向けた考え方~協力企業の場合~

(ア)元請けの要求内容を想定する

協力会社の場合、BCP策定の前提は、元請け企業からの要求がどのようなものになるかであり、元請けからの要求に対し、スムーズに対応するためにどのような工夫をするかが事業継続に向けた方針の内容になる。設備工事業の下請け企業によく寄せられる要求は「何人出せるか」「いつから出せるか」、扱っている製品によっては「すぐに見に行ってほしい」などの声が寄せられることもある。

緊急時の要求事項を事前に想定する際にヒントとなるのは、普段から寄せられている要求内容である。常日頃から事故対応などで緊急の発注が寄せられることが珍しくない場合は、緊急時にも同様の要求が寄せられることを前提に考えておけばよい。あとは工事件数の急増、緊急工事期間の短さ、対応期間の長さなどにどのように対応するかが課題となる。

一方、緊急工事が発注されることの少ない会社では過去の事例などを確認して、どのような要求が寄せられるかを想定しておくことが重要である。通常は、点検、被害確認、緊急の補修などが想定される。

過去設備工事業のBCPについて相談を受けた際に特定の自然災害に対する対応というアクションのみが列挙されていて、元請けからの要求がどのようなものになるか、またその要求に対してどのように対応していくのかが十分検討されていないBCPが多く存在していた。元請けの要求に対する対応が具体的に検討されていないのは事業継続に向けた方針としては不十分である。