国立研究開発法人防災科学技術研究所理事長の林春男氏と、関西大学社会安全センターセンター長の河田惠昭氏が代表を務める防災研究会「Joint Seminar減災」(事務局:兵庫県立大学環境人間学部教授 木村玲欧氏)の公開シンポジウムがリスク対策.comとの共催により1月18日に開催された。テーマは「コロナ対策と事業継続~withコロナ時代を生き抜く」。神戸市にある人と防災未来センターを会場に、行政、企業、医療機関がどのようにコロナに対応してきたか、登壇者がそれぞれの立場から発表し、ZOOMで中継した。シリーズでシンポジウムの内容を紹介していく。
第1回は「行政としての新型コロナ対策」をテーマに講演した佐藤令氏(奥能登広域圏事務組合危機管理官)の講演内容を紹介する。佐藤氏は、元航空自衛隊1佐で2019年10月に自衛隊を退官し、広域圏事務組合で全国初の危機管理官に就いた。

ステージで講演する佐藤氏。講演の様子はZOOMでも中継された。 

奥能登広域圏というのは、石川県の輪島市、珠洲市、能登町、穴水町という本当に小さな四つ市町が出資し合って運営している広域圏です。奥能登広域圏事務組合が消防や空港運営などを担っているのですが、人口は4市町合わせても6万4000人で、しかも高齢者比率(65歳以上)は45%を超えています。主要な産業は農業、漁業、漆器業です。能登半島の先端なのですが、世間的には輪島塗で名前だけは非常に知られています。

 

一方、危機管理は脆弱です。警察は2署しかなく120名態勢で、私がいる消防も約200名態勢です。自衛隊は、私が最後に勤めていた輪島分屯基地という航空自衛隊のレーダーサイトがあって、そこが約170名ですから、合わせても500人足らずしかいません。その他に県の機関として行政機関、土木機関と、あとは保健所がたった一つしかありません。奥能登は感染者が11月末まではゼロで、今(2021年1月現在)は30名に上っています。正月を過ぎてから一気に増えました。病院は各市町にあるのですが、問題は感染症対策の機能がないことです。奥能登で唯一、輪島に4床の感染者受入病床があるのですが、感染症対策といっても中等症までしか診られないので、非常に脆弱です。

地理的環境としては面積が非常に広く、東京23区の1.8倍あります。東西に80km、南北に30kmと非常に広いので、端から端まで車で行くのは本当に大変です。それから、生活環境の面も、市町の中心部に人が集中している一方で、山間部にも人口が非常に分散しています。政府が言っている3密とは全く関係ないような地域に見えるのですが、町の中心部で一度感染が起きてしまうと、すぐにクラスターが発生します。

半面、北陸地方は災害が少ない地域です。私は北陸地方に住んで3年なのですが、今のところ大きな災害は雪だけです。昨年3月には輪島で震度5強の地震が起こったのですが、大したことはありませんでした。災害に対する意識が低く、私たちは「災害不毛地帯」と呼んでいました。行政の立場として言うのは非常に良くないのですが、何とかなるという感覚だけで対応しているのが実態です。

新型コロナへの初動時における活動

こうした中で、新型コロナへの対応として何をすればいいかといっても、私は感染症のプロではありませんし、知識もありません。さはさりながら、奥能登広域圏という2市2町の危機管理官を拝命して、何かしなければならないだろうと考えていたのですが、はっきりいってよく分からないし、実際、石川県では対岸の火事で「東京は大変だね」という感じでした。厚生労働省や県が新型コロナに対するいろいろな考えを打ち出して、こうすべきであるという文書が出ているにもかかわらず、それが市町には届かないのです。

今回の新型コロナの一番の問題として私が個人的に思っているのは、感染症対策において、情報を外に出せないと言ったらおかしいのですが、個人情報に抵触してしまうために情報の取り扱いが限定されてしまっていることです。例えば、市町で誰かが感染しても、防災の専門である危機管理官の私ですらその名前を知ることができませんでした。ですので、どこで何が起きているのかも分からず、県からは何も指示が来ません。県は毎日のように感染者数を発表していますが、誰が感染したかも教えてくれません。それでどうやって対応するのかというのが最初のネックでした。保健所に問い合わせても、「それは話せません」という状態からスタートしました。これで諦めるわけにはいきませんから、自衛隊が敵の勢力を知るように、まず新型コロナとは何かという情報収集から始めました。

まず、医科大学の教授が教育をしてくれるということで金沢まで走りました。消防職員と5名で参加したところ、なるほどと思いました。そのときに初めて、手を洗いましょう、マスクをしましょう、3密を避けましょうと言われました。もちろん、政府も言っていたことですが、当時はテレビでウイルスが目から入ってくるなどと言われ、いろんな情報のどれが正しいのかよく分からないのが実情でした。しかし、総務省や消防庁からの発出文書をよく読んでみると、大学病院の先生に教わったことがしっかりと書いてあって、どこを重点的に守ればいいのが理解できました。それから、自衛隊時代のSARSやMARSへの対応検討資料が残っていたので、どういうふうに初動対応していくか、情報を収集・整理していきました。

保健所にも毎日のように電話をして、とにかくいろいろなことを教えてほしいと伝えました。今はどこでも救急搬送でコロナの患者を運んでいると思うのですが、救急隊員自身もコロナに感染するリスクを負い、今後の救急医療体制を崩壊させてしまう可能性があるので、まず職員の身をどうやって守るかを考えていかなければなりません。そのためにも「保健福祉センターから情報を頂かないと救急搬送はできない」と交渉したところ、協力関係を構築することができました。

感染症対策として市町村が実施すべき業務は、はっきりいって何も整理されていません。感染症法自体は相当前からあるのですが、その中で市町村が何か準備してきたかというと、あまりない。そこで、実際の業務を奥能登の市町に整理してもらいました。

感染防止備品の備蓄はマスクも全くない状況から始まりました。これを何とかしなければなりません。アルコールを集めましたし、特に私は自衛隊出身だったので、自衛隊に「何かあれば手伝ってください」とお願いに回りました。