緊急事態宣言の解除が近づいているが、2度にわたる延長で影響が長期化している。政府や自治体は意思決定プロセスのなかで、当初設定していた解除の基準を変更、一部では病床使用率のような重要データも修正した。が、これに対し十分な説明がなされたとはいい難く、政策への信頼低下は否めない。実際、首都圏の人出は一貫して増加傾向だ。何が問題だったのか、リレーインタビュー第5弾はリスクマネジメントの観点から、国・自治体の感染症対策への意見を紹介。
(文中の数字は2月24日取材時点の情報にもとづいています)

緊急事態宣言 解除間近も長引く影響
フォーサイツコンサルティング執行役員
五十嵐雅祥氏

Q.緊急事態宣言のたび重なる延長で、影響が長引いている。現在の状況をどうみるか?

そもそも政府、行政でどういうゴール設定がなされているのかが不透明だ。我々民間は何をどの程度やればいいのか、もはやまったく分からない。

ただ、上から「我慢しろ」といわれると従ってしまう国民性もあり、その結果、飲食店や関連業界は壊滅的状態。そうした人たちの声が届かないのをいいことに、ズルズルとゴールポストを引き延ばしてきた。一部の人たちの圧倒的な犠牲の上にあぐらをかいているというのが、現状に対する率直な印象だ。

自粛要請が長期化し飲食など一部の業界は壊滅的状態(写真:写真AC)

政府や自治体の対策を見ていると、マネジメントでいうところのPDCAのCとA、つまり検証と改善のプロセスが機能していないといわざるを得ない。ある時期に感染者が増えてきたとして、本来であれば状況を分析、検証して対策を改善していくべきところ、そうはせずに、マスコミや専門家といわれる人たちの思い付きのような意見に引きずられている。この1年ずっとそんな調子だ。

多くの人は「何か変だ」と気付いている。人出が減らないのは当然だ。

Q.市民の側も意見が割れている。緊急事態宣言の早期解除を求める声の一方、再々延長を求める声もある。

新型コロナに対する考え方で分断も(写真:写真AC)

そもそもコロナウイルスを含め、感染症にかかるのは油断したからでも、軽はずみな行動をしたからでもない。感染予防策をしっかりとるのは大前提だとして、ではコロナにかかった人は対策を怠っていたのかといえば、そんなことはない。感染症にかかるのはあたり前という認識が大切だ。

感染が始まってから1年以上経ち、最初の頃と違っていまはいろいろなことが分かってきている。新型コロナに罹患しても発症から10日ほど経てば人にうつすウイルスは出ないことも分かっている。だが、コロナ患者は治った後も、会社のなかで席を遠ざけられるなど、病原体のように扱われる。いまだにそうした実態があることが問題だ。

モラルの問題というより、科学的・基本的な事実が周知されていない。ならば、まずは感染症に対する正しい認識を醸成させることが最重要。その認識のもとに、この新型コロナ感染症に対してどれくらいまでのリスクを許容できるのかをコンセンサスにしていく必要がある。