2021/02/26
【オピニオン】緊急事態宣言再発出と延長
緊急事態宣言下の社会
危機のときこそユーモア 手放さない心のゆとり
インタビュー
奈良女子大学生活環境学部 鈴木則子教授
国内で新型コロナの感染が確認されてから約1年。長期化する外出自粛と移動制限が経済を冷え込ませ、教育モデルや働き方モデルの急変革が新たな格差を生み、外から強いられた「新しい生活」がストレスを増幅させている。だが、日本社会が感染症の危機に直面したのは今回が初めてではない。近代以前の社会は感染症の危機にどう対応してきたのか、庶民はどう振る舞ってきたのか。日本近世史、医療社会史を専門とする奈良女子大学の鈴木則子教授に聞いた。
https://www.risktaisaku.com/feature/bcp-lreaders
安心を求めて儀礼化や娯楽化
都会では「インフォデミック」も
Q.「感染症の克服」は近代社会の代名詞の一つですが、近代以前の人々はそうした病とどのように向き合っていたのですか。
江戸時代の感染症史料には麻疹(はしか)、疱瘡(ほうそう)、梅毒、結核、インフルエンザ、コレラがよく登場します。なかでも麻疹と疱瘡は「お役」といわれ、人生で必ず通過しないといけない重要な病でした。
庶民がとっていた対策といえば、端的には医療行為にプラスして、厄除けのまじないや神仏への祈願。例えば子どもの死因のトップだった疱瘡は、ひんぱんに流行しますから、疱瘡の神を描いた「疱瘡絵」を病児の枕元に飾って祀る習俗が、ある種の通過儀礼になっていました。
また、赤いものが疱瘡に効くといわれたので、赤いおもちゃや赤い絵本、赤く染めたお菓子の落雁なんかをよくお見舞いに贈っていました。病が軽いようにと、軽焼きをプレゼントすることもありました。
そこには、子どもに対する親や親戚、共同体の思いが感じられます。患者とその家族をみなで見守ろうという暖かい習俗。それは回復への祈りであるとともに、実用でもありました。落雁や軽焼きは食欲がない子どもが食べられるように、おもちゃや絵本は子どもが退屈しないようにと、そんな配慮でもあったわけです。
一方で麻疹は、20年~30年間隔で流行し、成人の罹患が多く、ゆえに重症化する人もいまよりずっと多かった。流行の間隔が長いので、家庭や地域に経験則が蓄積されにくい。そのため摺物や瓦版といったメディアの情報に、実用性がより強く求められました。
例えば「麻疹絵」といわれる版画や麻疹を扱った戯作、歌舞伎のパロディーですが、それらが庶民の娯楽として都会に広がった。ただ、疱瘡絵は実用情報を何も書いていませんが、麻疹絵は予後の養生によいとされることや、逆にやってはいけない禁忌を書いている。ですから幕末に出版業界がヒートアップし、情報が氾濫し始めると、いまのコロナ禍と同じような現象が起こってきます。
特に禁忌に指定されたこと、例えば床屋に行って月代を剃ってはいけない、高温の銭湯に入ってはいけない、歌舞伎を見に行ってはいけない、遊郭に行ってはいけない、ほかにもお酒がダメ、お蕎麦がダメ、天ぷらがダメということで、飲食業界や娯楽業界がものすごい痛手を受けた。
江戸は未婚者、単身者が多く、いまでいうファストフードの屋台がたくさんありましたから、それがダメになるとすごく不景気になります。また麻疹の後は1カ月~2カ月休養を取らないといけないといわれたので、ひとたび感染が始まると働き手がいなくなった。情報の氾濫が経済社会を混乱に陥れたのです。
【オピニオン】緊急事態宣言再発出と延長の他の記事
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方