国の新型コロナ対策 今後の動き
新型コロナウイルス感染症対策分科会委員/川崎市健康安全研究所所長
岡部信彦氏に聞く

新型コロナウイルス感染症対策分科会委員/川崎市健康安全研究所 岡部信彦氏

2度目の緊急事態宣言発出後も新型コロナの感染者数、重症者数は高い水準で推移。先行きが見えない状況が続くなか、いわゆる「特措法(新型インフルエンザ等対策特別措置法)」や「感染症法」の改正案が議論され、変異株やワクチンの動向に注目が集まっている。医療ひっ迫の一方で経済社会のダメージも蓄積し、飲食業界などでは影響が深刻化、日常生活の負荷も大きい。東京五輪の決断も待ったなしだ。コロナ対策は今後どうなるのか、今何が求められているのか、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会などで提言を行ってきた川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦氏に聞いた。(本文の内容は1月19日取材時点の情報に基づいています)

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今回の宣言は感染拡大しやすいところを
ピンポイントで抑える

Q. 昨年4月の緊急事態宣言のときとの違いは何でしょうか。

東京・渋谷のスクランブル交差点を行きかう人々(写真:写真AC)

前回の緊急事態宣言のときはこの新しいウイルス、病気に対して手探り状態ともいえる状況だった。欧米や中国に比べ緩い制限だったとはいえ、一斉休校や強い外出自粛、接触回避などが行われ、日本では初めての経験だったため、インパクトも強かった。結果、感染者数が少なかったこともあるが、一応爆発的流行は免れた。

その後7月、8月にも流行があり、感染者数は4月、5月を上回ったが、だんだん病気の様子も見えてきた。そのためこの時は、数が増えたことに驚かず、質の変化を見つついくつか注意をすれば収まってくるという見通しで対応した。結果、幸いにしてその通りに収まった。

しかし人がずっと静かにしているのは無理で、当然、いろいろな場所に動く。感染がある程度出てくるのはやむを得ないのだが、それが昨年の11月、12月になって顕著に表れてきた。

感染症は感染者が少ないときは広まらずくすぶっているが、一度増え始めると、特に人口が過密な首都圏では一気に広がる。4月、5月、7月、8月の流行を上回る感染者が出てくると、重症者も増えてくるわけだから、当然これを抑えないといけない。

だが、そのときに昨年4月、5月並みの対策を取れば、負の影響が大き過ぎる。ならばクラスターが発生しやすいところがだいぶ分かってきているので、そこをピンポイントで狙おうというのが今回の対応だ。

そのため前回に比べると、人の動きの制約はきつくない。品川や渋谷で「人が減っていない」といわれるが、それは当たり前で、そうした動きの制約を設けず、なんとかしようというのが今回の方針だ。

Q. クラスターが起きやすいところとは具体的にどこですか。

クラスターが最も起きやすいのは病院や福祉施設。しかし病院や福祉施設は一斉に動きを止めることはできない。また家庭内でも起きやすいが、例えばマンションのある家族に感染者が出ても、それがマンションのフロア全体に広がったなどというケースはない。

つまり家庭内クラスターは結果であり、感染拡大の原因ではない。家庭に持ち込まないような注意は必要で、またそこに高齢者の方などがいると別の注意が必要になるが、その周辺の注意を強化しても、感染の拡大を抑えるという点ではあまり意味はない。

人通りの少ない東京・夜の街(写真:写真AC)

次いでクラスターが起きやすいのが飲食店だ。飲食店そのもの、あるいは飲食することが悪いわけではないが、飲食店内での人々の行動は、家庭と違って感染拡大の原因になる。そのためピンポイントの対象になったわけだが、繰り返したいのは「外食=悪」ではないこと。問題はマスクを外して狭い環境で大声でしゃべることで、かつ、その時間が長引くことにある。

それをあえて具体的に言えばお酒が入る飲み会になるが、当然、ランチタイムでも同じ。逆に午後8時以降でも、サッと食べて帰れば問題ない。また飲食以外でも、大勢が集まる寮生活などは注意が必要。会社でも、みなが集まってしゃべり合う場所や場面は気を付けなければならない。

そのことを整理したのが、いわゆる「感染リスクが高まる『5つの場面』」。要は、行為に目を向けて注意しようということだ。が、そこがメッセージとして届いていないのが反省としてある。お願いする際は条件を明確にしないといけないため区切りを設けているが、午後8時以降が悪いわけでも、ましてや飲食店が悪いわけでもない。

罰則など議論が複雑になっているが、飲食店はむしろ被害者。補償は当然必要で、そこは税金から協力謝礼金を出す。社会として支える意識を持つべきだ。