2021/03/30
BCP策定推進フォーラム開催レポート
東京都中小企業振興公社は1月28日、「コロナ危機を生き抜くBCPの運用方法」をテーマとするBCP策定推進フォーラムを都内で開催した。
第1部では、株式会社東京商工リサーチ情報本部情報部部長の松永伸也氏が基調講演を行ったほか、新建新聞社リスク対策.com編集長の中澤幸介氏が感染症を考慮したBCPについて解説した。第2部では、大成化工株式会社代表取締役社長の稲生豊人氏、株式会社マルワ代表取締役社長の鳥原久資氏、株式会社生出代表取締役社長の生出治氏の3者が事例発表を行なった。シリーズで、講演内容を紹介していく。第1回は、株式会社東京商工リサーチ情報本部情報部部長の松永伸也氏の講演内容より。

負債1000万円未満の倒産件数は2000年以降で最多
新型コロナウイルスの感染拡大で、特に中小企業では、倒産や事業の継続が困難になるなど、甚大な影響を受けています。ただし、実際にそれを反映するような倒産件数が数字に現れているかというと、決してそうではない。倒産件数は、過去にないほど減っています。
2008年9月のリーマン・ショック以降、倒産件数は増えることなく右肩下がりを続けてきました。「中小企業金融円滑化法」という時限立法が執行されたことにより、中小・零細企業の資金繰りはかなり緩和されたと言われています。円滑化法が失効し、アベノミクスのカンフル剤的な効果も薄れるなか、2020年1年間で倒産が急増するのではないかと思われました。ただ、コロナ禍による政府や金融機関による資金繰り支援策の効果で再び倒産件数が抑制される結果となりました。
昨年1年間の倒産件数は7773件。30年ぶりに年間8000件を割り込みました。ただし、企業倒産の集計対象(負債1000万円以上)外の負債1000万円未満の倒産は、2000年以降で最多となっており、小・零細規模の倒産が着実に増えていることを浮き彫りにしました。
倒産は緩やかな増勢の可能性
負債1000万円以上の新型コロナウイルス関連倒産は、12月末現在で792件、1月27日現在では848件、弁護士一任など事業停止を含めると925件に達しています。今後、コロナで倒産した会社と取引があった会社も倒産してしまうという連鎖的な倒産も広がってくる懸念があります。
コロナ禍での影響を大きく受けていると言われている「コロナ関連7業種」は、対人接触型・労働集約型の産業であること、そして固定比率が高い会社という共通項があります。それらの業種から卸売業、製造業などにも影響が及びつつあり、今後、小零細企業から徐々に中堅企業、そして大企業へ波及していく可能性があります。
当社の顧客へのアンケート調査によると、中小企業の9月の減収率は80.2%、6カ月連続で8割超に及んでいます。また、中小企業の廃業検討率が8.6%となっています。政府の支援等によって事業は継続しているものの、売り上げを増やすことのできない状態にあり、最終的には資金繰り支援で借入金ばかりが増え、採算悪化から破綻する企業がこれから増えてくる可能性があります。もしくは、先行き見通し難から廃業を選択する経営者も増えるでしょう。
そうした要因を背景に、今後の倒産件数の推移を考えると「倒産は緩やかな増勢に向かう」と予想されます。ただ、今年行われる選挙への配慮や、中小企業育成を含めた施策が講じられるなど、意図的に倒産が先送りされることもあり得ます。それがなければ、倒産は確実に増えてくるのではないかと思います。
BCP策定推進フォーラム開催レポートの他の記事
- 地震対策のBCPはコロナにも有効に機能する
- 社員一丸でまわすリスクマネジメント
- 週休3日でも工場稼働率を高める
- 感染症を考慮したBCPのポイント
- コロナによる中小企業への影響と今年の景気を読み解く
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方