アルコール消毒液や飛沫防止シートに対する注意を呼びかける消防庁のリーフレット

コロナ禍が火災の発生件数や発生確率、被害様相にどのような影響を与えるかは、現時点でははっきり分からない。しかし、生活環境や職場環境が従来と大きく変わってきていることは確か。状況をみながら対応を考えていく必要があるだろう。

火災を引き起こすのは「火種」と「可燃物」。そして「人」がいるほど両者の接点は増す。半面、火災の早期発見や初期消火は人がいるほど有利だ。テレワーク、勤務シフト、時短営業・休業といった人の流れや動きの変化がそれらにどう影響するか、プラス・マイナス両面をみなければならない。

人の流れと動きが変わっている

住宅火災の場合、家にいる時間が長くなり、普段使わない火を使うことで発火のおそれが増す可能性はある。昨年から今年にかけて自家調理の増加によるコンロ火災の頻発が問題となったが、これなどは不慣れな人が料理をしたり、火をつけたのを忘れて仕事をしたりといった行動が原因とされている。

ただ、その場に人がいることから、発見や通報は逆に早まる可能性もある。また居住者の死亡につながる火災は就寝後が圧倒的に多いから、そこはコロナ禍でも条件は変わらない。「さまざまな要因が作用するので、それが火災の発生と被害にどう影響するかは統計が出てからでないと分からない」と、東京理科大学総合研究院の小林恭一教授はいう。

可燃物に関しても、アルコール消毒液やアクリル板などのパーティションがオフィスや店舗を含めて屋内に増加。これらも発火リスクを高める要因だ。が、それがどこでどのように使われているかはケースによる。「火種の近くで使わなければ火事にはならない。気にはなるが、火災統計を押し上げるほどの影響があるかは何ともいえない」

コンロ火災と電気火災に注意

ただ、リスクの見直しはもちろん必要だ。住宅でいえば、襖や障子などが減って建材が燃えにくくなり、室内で裸火を使用する機会も減ったことで、長期的には火災の発生が抑えられてきている。しかしだからこそ、可燃物が増える、火種が増える、人の動きが変わるといった条件変化は、微小であっても認識しておきたい。

●住宅(店舗・オフィス・避難所)の火災発生状況とコロナ禍によるリスクの変化要因
データ出所:令和2年版消防白書、本紙作成

その一つが、前述した自家調理の増加によるコンロ火災のリスク。さらにもう一つ、注意したいのは電気火災だ。実際、仏壇の灯明やストーブが原因の出火は長期的に減少、タバコやコンロも比率は高いながら減少しているのに対し、電気火災は右肩上がりで増えている。

原因は壁内配線の劣化や機器の故障もあるが、最も多いのはテーブルタップのような配線器具からの出火。接続された電気製品の消費電力が最大容量を上まわって異常発熱したり、家具などによって配線が押しつぶされ断線したり、コンセント口に埃がたまったりすると、発火のおそれがある。

最近は空気清浄機からの出火も報告されているが、家にいる時間が長くなったことで新たな電気製品を購入、配線が集中することも考えられる。これも火災リスクを引き上げる要因となるので、気を付ける必要があるだろう。

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