工場火災のイメージ(Shutterstock)

火災統計に表れていないからこそ注意

リスクの大きさは「発生確率×被害の度合い」で評価される。コロナ禍がそれらにどの程度影響するかは分からないが、序章で紹介したSpecteeのデータが正しいとするなら、火災のリスク評価はかなり押し上げられてもおかしくない。

その要因は、一般家庭でいえば、例えばPART1でも紹介した巣ごもりやテレワークによる自家調理の増加や電気製品の増加など。ただ、統計上の火災件数としてあらわれてきてはいないため、単なる「偶然」として片付けられかねない。認知の不足を招く可能性もあり、かえって注意を高めたいところだ。
●全火災の月別出火件数(2020 年1月~9月)

画像を拡大 総務省消防庁の統計では2020年1月~9月の火災件数はむしろ前年同期より減っている

半導体工場の火災が連鎖している

このような視点で、企業について言えば、火災リスクが高まっている理由はいくつか考えられる。

ここ数十年、工場・作業所、事務所など、企業全体における火災の発生件数はほとんど変わらない。しかし、業種によっては発生確率が高まっている可能性がある。統計上の数字にはあらわれないが、特定の分野で火災が増えているような現象だ。

例えば、半導体業界では昨年10月に宮崎県延岡市にある旭化成エレクトロニクスの工場で火災が発生、今年3 月19日には茨城県ひたちなか市のルネサスエレクトロニクス那珂工場で火災が起きた。

旭化成エレクトロニクスは火災による既存工場の復旧をあきらめ、その代替生産をルネサスエレクトロニクスに委託。そのルネサスが大規模火災に見舞われるというまさに「偶然」の連鎖となった。

かつ、その直後の3 月31日、今度は台湾でTSMC のFab12B 工場で火災が発生。生産への影響はなかったが、変電所の部品の異常により二酸化炭素消火システムが作動し、その結果、協力会社の従業員がCO2を過剰に吸い込み病院に運ばれる事故が起きた。

また、火災ではないが、4月14日には台南市にあるFab14B P7 工場で大規模な停電が発生。原因は別の建設作業で地下電源ケーブルを誤って破損したこととされている。

さらに4月21日、再びルネサスエレクトロニクス那珂工場で今度は発煙事故が発生。3月の発火場所とは異なり「電気系統のトラブルとみられる」という。

これだけ火災が続けば、短期間とはいえ、発生確率は高まっていると考えるのが妥当だろう。ただし原因が分からないため、一連の事故が単なる偶然なのか、何か「共通のリスク要因」があるのかまでは特定されていない。

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