2018/03/27
防災・危機管理ニュース
内閣府は26日、「大規模・広域災害時の災害救助事務の連携強化に関する協議の場」(宮城県・兵庫県)の第2回会合を開催。災害時に都道府県から一部権限を希望する政令指定都市に移譲する災害救助法改正の方針について、2011年の東日本大震災を経験した宮城県と仙台市、1995年の阪神・淡路大震災を経験した兵庫県と神戸市のほか、仮設住宅を供給する住宅・不動産の業界団体も出席し、意見交換が行われた。災害時に迅速円滑な救助ができるよう、都道府県、政令指定都市や業界団体が平時から緊密連携することの重要性を改めて確認した。
内閣府から、大規模災害時の緊急物資の支援体制について説明した後、今後の指定都市に一部権限と費用負担を移譲する災害救助法改正案の進捗も報告した。法改正について現状では、都道府県が行う市町村間の資源配分を行う広域調整機能を強化する一方で、災害救助法で定める仮設住宅の設置や、水や食料など緊急物資の給与、被災者の救出など10項目について、政令指定都市が新たな救助主体として指定できる制度を創設する予定。移譲にあたって、救助主体になる政令市には都道府県と同様、基金の最低積立額の特例を検討していることも報告した。
また今回の改正について、都道府県にとっては、財政と事務処理の能力がある指定都市と連携を図ることで、災害時に起こる膨大な事務業務を効率的にでき、財政負担の軽減や、他の市町村への支援に集中できるなどの利点を強調。都道府県の広域調整の役割に変更が加えられるものではなく、災害対応における指揮系統が二元化されるものではないことも明確にした。
宮城県は、全国知事会の見解として「権限移譲の必要はなく、あくまで事務の委任でよい」との基本方針としながらも、東日本大震災の被災県として改正される場合は具体的な運用支援に協力する姿勢であるとした。仙台市は、県から権限移譲を受けることを想定した具体的対応措置として、国と県の災害対策の会議や調整の場に指定都市の連絡員を派遣することや、仮設住宅の整備についてあらかじめ県と政令指定都市で仕様・契約書式・処理スキームなどを共通化することなどを提案した。
兵庫県は、県と市町が緊密に連携をとり、地域防災計画・災害救助の手引き・マニュアルの作成、民間団体との協定締結、合同防災訓練の実施などで協働していくことの重要性を訴えた。「法改正をしても、現行のように県が総合調整役となり、具体的な対策・対応は県と市町が緊密に連携して実施する。大きなフレームは実質的に変わらないのではないか」とした。神戸市も、権限移譲をするしないに関わらず、あらかじめ県とともに災害対応の運用マニュアルを整備することが重要として、その一例として国や県・民間の流通・物流業とともに策定した同市の「災害時物資供給マニュアル」の策定状況を紹介した。
このほか、建設型仮設住宅について参加した業界団体から要望があった。プレハブ建築協会は、権限移譲により県と政令指定都市でそれぞれ仮設住宅建設の発注があった場合、仕様・資材が多様化することで迅速な施工ができないこと、また被災地市町村間で不公平感が生じることなどを懸念し、建設の仕様・スキーム・窓口を県に一本化することを改めて要請した。また仮設住宅建設を経験した兵庫県建設労働組合連合会は「権限移譲をしてもしなくても、県と政令指定都市が綿密に連携を取れていれば問題ない」としたうえで、災害時に緊急交通路の使用許可や被災地外から応援に駆け付ける組合員の宿泊施設の確保を要望した。
内閣府大臣官房・米澤健審議官は「いかに迅速に円滑に救助対応を提供できるのかというのが共通のテーマ。災害救助法の改正により都道府県から政令指定都市への権限移譲があるなしに関わらず、都道府県や政令指定都市、その他の市町村が緊密に連携し、平時から準備をして計画・訓練をする、業界団体と継続して意見交換して顔の見える関係を築いておくことで、初めて大規模災害が発生した際に被災者に円滑に住宅が供給できる体制が整う。連携が大事であるかを改めて認識できた」と意見交換の場を締めくくった。
(了)
リスク対策.com:峰田 慎二
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