2021/09/21
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
なお、図1の縦軸はLevel AからEまで5段階に分けられているが、その基準は図2のようになっている。必ずしも全てのリスクに対する影響を金額に換算できるわけではないので、経済的インパクト、死者数、避難者数、環境に対するダメージ、社会インフラへの影響、国際関係などといった観点からの評価基準が併記されている。

これらの図に続いて、リスクアセスメントの結果に関する説明が文章で4ページにわたって掲載されている。図1が短期的な評価に基づいて作成されているのに対して、文章の方では長期的な見通しを含めて解説されている。
さらにChapter 4では、評価対象となった個々のリスクについて、次のような共通の構成で解説が掲載されている。
・What’s the risk? (どのようなリスクか、顕在化するとどのような影響があるか)
・Have such events happened before? (過去の事例)
・What’s being done about the risk? (政府が実施している対策)
・Useful information and advice (そのリスクに備えるための参考情報)
・Additional online resources (インターネットで入手できる参考資料へのリンク)
このNational Risk Registerの最大の特徴は、次の2つの観点で網羅的なことである。
1つ目は評価対象のリスクの網羅性である。動物の疫病(animal diseases)から宇宙の天気(severe space weather)(太陽フレアや太陽のコロナガスの噴出などが含まれる)まで、実にさまざまなリスクが評価対象に含まれている。企業でリスクアセスメントを実施する際に、National Risk Registerを参考にすれば、外部要因に関するリスクは概ねカバーできるのではないだろうか。
2つ目は担当省庁の網羅性である。当然ながら英国においても、多くのリスクに関する担当省庁は異なるが、Chapter 4の解説には、政府が実施している対策や、関連する法令や制度、各省庁から提供されている情報などが幅広く記載されており、詳細は各省庁のWebサイトを参照するようリンクが埋め込まれているので、企業や地域社会、家庭、個人としてさまざまなリスクに備えるための情報の入り口として、非常に便利な構成になっている。日本でもこのような資料が提供されていたら、どれだけ楽になるかと思う。
もちろん日本と英国とでは状況が異なるため、英国のNational Risk Registerの内容が日本におけるリスクマネジメントに直接役立つわけではないが、企業として調査・評価すべきリスクの範囲を検討する際には大いに参考になるし、解説の内容についても、英国固有の情報を区別すれば日本企業にとって有益な情報や知識も多い。リスクアセスメントのお手本の一つという意味も含めて、ぜひご一読いただきたい資料である。
注1)第154回:米国における自然現象に対する各郡ごとの災害リスク指数
FEMA / The National Risk Index
https://www.risktaisaku.com/articles/-/57427(2021年8月24日掲載)
注2)岡部紳一(2010)「特別寄稿 国内標準規格が浸透する英国 日常リスクに備えたBCP」、『リスク対策.com』vol.19 (2010.5.25)、p. 28-33、新建新聞社
注3)以前にご紹介した米国のFEMAによるNational Risk Indexでは、自然現象(natural hazards)のみが分析・評価の対象となっているが、これに対して英国のNational Risk Registerは、サイバー攻撃やCBRN(化学・生物・放射性物質・核)などの人為的なものも対象に含まれている。
注4)CBRNとは次の4つの物質の頭文字を取った略称である。
・Chemical(化学)
・Biological(生物)
・Radiological(放射性物質)
・Nuclear(核)
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!の他の記事
おすすめ記事
-
ランサムウェアの脅威、地域新聞を直撃
地域新聞「長野日報」を発行する長野日報社(長野県諏訪市、村上智仙代表取締役社長)は、2023年12月にランサムウェアに感染した。ウイルスは紙面作成システム用のサーバーとそのネットワークに含まれるパソコンに拡大。当初より「金銭的な取引」には応じず、全面的な復旧まで2カ月を要した。ページを半減するなど特別体制でなんとか新聞の発行は維持できたが、被害額は数千万に上った。
2025/07/10
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/07/08
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/07/05
-
-
-
-
-
-
「ビジネスイネーブラー」へ進化するセキュリティ組織
昨年、累計出品数が40億を突破し、流通取引総額が1兆円を超えたフリマアプリ「メルカリ」。オンラインサービス上では日々膨大な数の取引が行われています。顧客の利便性や従業員の生産性を落とさず、安全と信頼を高めるセキュリティ戦略について、執行役員CISOの市原尚久氏に聞きました。
2025/06/29
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方