なお、図1の縦軸はLevel AからEまで5段階に分けられているが、その基準は図2のようになっている。必ずしも全てのリスクに対する影響を金額に換算できるわけではないので、経済的インパクト、死者数、避難者数、環境に対するダメージ、社会インフラへの影響、国際関係などといった観点からの評価基準が併記されている。

画像を拡大 図2. リスクが顕在化した場合の影響の評価基準(出典:英国政府 / National Risk Register 2020 edition)

これらの図に続いて、リスクアセスメントの結果に関する説明が文章で4ページにわたって掲載されている。図1が短期的な評価に基づいて作成されているのに対して、文章の方では長期的な見通しを含めて解説されている。

さらにChapter 4では、評価対象となった個々のリスクについて、次のような共通の構成で解説が掲載されている。

・What’s the risk? (どのようなリスクか、顕在化するとどのような影響があるか)
・Have such events happened before? (過去の事例)
・What’s being done about the risk? (政府が実施している対策)
・Useful information and advice (そのリスクに備えるための参考情報)
・Additional online resources (インターネットで入手できる参考資料へのリンク)

このNational Risk Registerの最大の特徴は、次の2つの観点で網羅的なことである。

1つ目は評価対象のリスクの網羅性である。動物の疫病(animal diseases)から宇宙の天気(severe space weather)(太陽フレアや太陽のコロナガスの噴出などが含まれる)まで、実にさまざまなリスクが評価対象に含まれている。企業でリスクアセスメントを実施する際に、National Risk Registerを参考にすれば、外部要因に関するリスクは概ねカバーできるのではないだろうか。

2つ目は担当省庁の網羅性である。当然ながら英国においても、多くのリスクに関する担当省庁は異なるが、Chapter 4の解説には、政府が実施している対策や、関連する法令や制度、各省庁から提供されている情報などが幅広く記載されており、詳細は各省庁のWebサイトを参照するようリンクが埋め込まれているので、企業や地域社会、家庭、個人としてさまざまなリスクに備えるための情報の入り口として、非常に便利な構成になっている。日本でもこのような資料が提供されていたら、どれだけ楽になるかと思う。

もちろん日本と英国とでは状況が異なるため、英国のNational Risk Registerの内容が日本におけるリスクマネジメントに直接役立つわけではないが、企業として調査・評価すべきリスクの範囲を検討する際には大いに参考になるし、解説の内容についても、英国固有の情報を区別すれば日本企業にとって有益な情報や知識も多い。リスクアセスメントのお手本の一つという意味も含めて、ぜひご一読いただきたい資料である。

注1)第154回:米国における自然現象に対する各郡ごとの災害リスク指数
FEMA / The National Risk Index
https://www.risktaisaku.com/articles/-/57427(2021年8月24日掲載)

注2)岡部紳一(2010)「特別寄稿 国内標準規格が浸透する英国 日常リスクに備えたBCP」、『リスク対策.com』vol.19 (2010.5.25)、p. 28-33、新建新聞社

注3)以前にご紹介した米国のFEMAによるNational Risk Indexでは、自然現象(natural hazards)のみが分析・評価の対象となっているが、これに対して英国のNational Risk Registerは、サイバー攻撃やCBRN(化学・生物・放射性物質・核)などの人為的なものも対象に含まれている。

注4)CBRNとは次の4つの物質の頭文字を取った略称である。
・Chemical(化学)
・Biological(生物)
・Radiological(放射性物質)
・Nuclear(核)