広報の判断ミスがトップを辞任に追い込むこともある(写真:写真AC)

不祥事の公表タイミングの判断は実に難しいといえます。分かった時点で迅速に第一報を発表し詳細は記者会見、あるいはギリギリまで調査してマスコミから問い合わせがあった段階で発表、同日に取引先などすべてに発表など、さまざま選択肢があるわけで、それを設計するのが世論・マスコミ対応のプロである広報責任者の役割です。

公表のタイミングが重要(写真:写真AC)

着任したばかりで不安があれば、危機管理広報の専門家に相談できる体制を構築する発想も必要でしょう。タイミングの設計を間違っただけで批判が拡大し、トップを辞任に追い込んでしまうこともあります。最近このことを実感した事例を取り上げて解説します。

トップ2名の辞任に発展した三菱電機の検査不正問題

本連載第32回でも取り上げた三菱電機の検査不正問題は、社長、会長、トップ2名の辞任にまで発展してしまいました。30年以上続けられてきた不正を現時点のトップがなぜ責任を取るのかと、納得いかない思いで報道を見ている経営者の方もいるのではないでしょうか。

筆者は、タイミングを間違えなければ社長の辞任にまでは至らなかったと考えます。理由は、6月に不正が発覚した段階での公表のタイミング、全体設計方法に重大な判断ミスがあったと思うからです。どのような判断ミスがあり、調査委員会の視点の甘さがどこにあるのかを考えてみます。

発覚から公表までの過程は?(写真:写真AC)

10月1日に発表された第三者委員会の調査報告書によると、三菱電機が社内調査の中で、長崎製作所が鉄道車両用空気調和装置について「顧客と合意した」品質試験の一部を実施していないことを把握したのが今年の6月14日。社長が知ったのは翌日15日。そして6月23日には、1985年頃から不正が続いてきたことが判明。

これに対し、25日に取引先への説明を開始、29日に株主総会、7月2日に不正検査について発表。このようにした公表タイミングの設計そのものが、危機管理広報の基本からすると呑気な判断であり、リーク予測不足、想像力不足です。いったいどのような経緯でこのような設計になってしまったのでしょうか。

リークされるリスクを予見できていなかった

「6月23日から6月25日にかけて、総務担当の常務執行役が社外取締役に対し、上記の認定した事実や当該事実を7月2日に公表予定であること等を個別に説明した。その際、6月23日に説明した社外取締役の一人から、公表時期が株主総会後となることの是非について専門家の助言を得るようにとの要請があったことから、三菱電機は翌24日に顧問弁護士(西村あさひ法律事務所ではない、都内の大手法律事務所所属の弁護士)に相談したところ、当該顧問弁護士より、総会後に公表することにつき違和感はない旨の見解を得た。また、6月25日、社会システム事業本部長、生産システム本部長、コーポレートコミュニケーション本部長らが打合せを行った際にも、株主総会前に公表することの是非を再検討したが、同日から顧客等に対する説明を開始する段階にあり、顧客等への説明に約1週間は必要であること等を踏まえ、7月2日に公表予定とする方針を変えないこととした」(10月1日発表調査報告書P12)

リスクマネジメントの観点から「報道されるリスク」と、それによって生じる信頼失墜リスクがごっそり抜け落ちています。社外取締の一人が、公表が株主総会後になることに対する懸念を伝えたということは、そこが1つの争点になると予測できたはずです。つまり、1週間の間に株主総会があるということは、通常よりもリークの可能性が高まると予測する必要がありました。

実際、7月2日に予定していた記者会見前の6月30日に鉄道空調の検査不正について報道がされてしまいました。そもそも6月15日の時点で公表方法について検討する機会が持てたはずです。15日であれば株主総会までは14日間あります。株主総会前までに公表する準備は十分です。

リークのリスクは予見できなかったのか(写真:写真AC)

不思議で仕方ないのは「コーポレートコミュニケーション本部長ら」の態度。彼らは「25日から監督官庁や取引先に説明を開始したら、すぐに情報は漏れてしまう。1週間はもたない。リークされて報道される。そして批判の声が高まり、信頼を失墜させる。こちらに隠す意図がなかったとしても、危機意識が低い会社とされ、社長が辞任に追い込まれる可能性もある」と意見を述べなかったのでしょうか。

あるいは言えない雰囲気だったのか、言っても役員に反対されたのか、法的に問題ないと顧問弁護士に突き返されたのか、そこは報告書に不記載です。この決定プロセスについては、もっと詳しい報告書があってこそ教訓につながります。