2021/11/15
事例から学ぶ

標高1835メートルの旭岳を源流に福島県中通り地方を北上し、宮城県で太平洋に注ぐ全長約240キロの阿武隈川は、2019年10月の台風19号(令和元年東日本台風)による記録的な大雨で各地に被害をもたらした。同水系における堤防の決壊は福島・宮城両県合わせ52カ所。フォークリフトの販売・整備、レンタルを行うトヨタL&F 福島(福島県郡山市、阿部賢輔社長)も、過去の水害を教訓に浸水対策をしていたにもかかわらず、支流の谷田川の決壊で本社が浸水した。被災から2年、想定外の水の流入対策を強化して事業を継続する。
トヨタL&F 福島
福島県郡山市
❶過去の水害を教訓に浸水対策をしていた
・会社の移転時、水害リスクを見込んで地盤のかさ上げや防水壁の設置を行っていた。が、想定を上まわる水の流入を防げず
❷経営判断で現在地での事業継続を決め直ちに対策実行
・経営判断によって現在地で事業を継続することを決め、可能な限りの対策を即実行。かさ上げ、防水壁などのハードを強化し、重要設備の移設も速やかに
❸新たにBCPを策定し社内への浸透に努める
・新たにBCPを策定。完成度はまだ「6合目」としながらも、訓練などを通じたブラッシュアップと社内への浸透に努める
移転したばかりでの被災
郡山駅から直線距離で2キロほど離れた郡山中央工業団地に本社を置くトヨタL&F 福島は、浸水対策を実施していたにも関わらず、2年前の台風19号で被害を受けた。同社総務部次長の桑原清一氏は「本社事務所と整備工場が80~ 90センチほど浸水。主力のフォークリフト約100 台が水に浸かった」と振り返る。
同社は事業の拡大と従業員の増加でフォークリフトと社用車の駐車エリアが手狭になり、2019 年3月に中央工業団地へ移転してきたばかり。現地から10キロほど離れた水害リスクのない西部工業団地も移転地の候補にあったが「郡山駅から近く、広い土地を確保できたので、こちらを選んだ」と桑原氏は話す。中央工業団地は阿武隈川と支流の谷田川に挟まれ、もとは旧日本軍の飛行場だった場所を、福島県が工業団地として1964 年から整備し、企業を誘致してきた。
防水壁とかさ上げの事前対策
阿武隈川水系は、過去に繰り返し氾濫を起こしている。1986 年の台風10号では福島県内で3人が亡くなり、5000棟を超える床上浸水が発生した。このときも同じ谷田川が氾濫し、中央工業団地が浸水。また1998年の台風4・5 号でも福島県内で11人が命を落とし、1000 棟以上が床上浸水している。
そのため同社がこの地に移転するときには、社長の判断で地盤を1メートルほどかさ上げし、敷地を取り囲むかたちで約2メートルの防水壁を設けた。2019 年の台風19 号が襲来した際は、出入口用に防水壁が途切れた2カ所のスペースに防水板を設置し、周りを囲んで浸水を防ぐ構えだった。
しかし、10月12日から13日未明にかけての大雨で堤防が決壊した谷田川から流入する大量の水を防ぐことはできなかった。「移転を検討していたとき、郡山市のハザードマップを参考にしたが、谷田川の決壊は想定されていなかった」と桑原氏は語る。

郡山市が2020 年に実施した被害事業者調査によると、中央工業団地だけでも、被害を受けた事業者は271 社にのぼる。団地全体で被害額は528億円を超えた。
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