2022/01/31
インタビュー
東京海上日動火災保険が呼びかける形で昨年11月24日、防災・減災の新しい取り組みを加速・推進し、災害に負けない社会の構築を目指す「防災コンソーシアム(CORE)」が発足した。業界の垣根を越えたコミュニケーションの機会を提供すべく、多種多様な業界の企業で構成するもので、同社を含む13社が創立メンバーに名を連ねる。今年4月の本格稼働に向けて準備を進める同社dX推進部企画グループ担当課長の大島典子氏に、「CORE」発足の経緯や意図、将来的な方向性について聞いた。
―コンソーシアム発足の経緯について教えてください。
東京海上日動火災保険
dX推進部企画グループ担当課長
大島典子氏
大島 防災・減災は、東京海上グループにとって一丁目一番地で取り組まなければいけない領域と考えています。災害が年々増えていく中で、非常に大きな経済的損失があり、お客様の命や大切な資産が喪失してしまうようなことが多くあります。2018年度を振り返ると、大阪府北部地震や西日本豪雨など多くの災害が発生しました。同年度の風水害に関わる保険金請求だけでも受付件数は業界全体で100万件を超え、保険金も1兆円を超える金額をお支払いしていますが、地震も含めるとこれ以上の被害があったということです。
損害サービスでは、通常、申告をいただいて立ち会いをし、審査を通してお支払いすることが基本的な流れですが、保険金を迅速にお支払いするため、衛星画像をもとに対象となる地域全体の浸水の範囲や深さを判断し、保険金の支払いに活用する取り組みも始めています。
また、グループ会社による専門コンサルティング・サービスでは、その地域や法人が、どのぐらいの災害リスクを抱えており、どんな対策をしたほうがいいかといった内容への対応も、近年力を入れて取り組んでいます。
さらに、社会のニーズ・課題を解決したいという気持ちも強く、共同研究・包括協定の取り組みとして、常に大学・研究所などと自然災害のリスクを研究し、36都道府県と協定を締結するなど、地域や企業をはじめ、様々な方の意見とニーズをいただきながら進めています。そのほか、環境への配慮やマングローブの植林、小学生を対象とした防災啓発プログラムの「ぼうさい授業」なども、並行して進めている領域です。
東京海上グループとして、自然災害だけでなく、人災も含めたあらゆる災害への対応について3つのことを実現していきたいと考えています。1点目は、「あらゆる災害の“防災・減災”に取り組み、被災を半減する」。非常に高い目標なので無理ではないかと社内外で言われますが、やはり命を落としてしまうことは無くしたいという気持ちが大きく、高い目標を目指しています。
2点目は、「現状把握」と「生活再建」という保険関連領域に加えて、「対策・実行」「避難」も含めた防災の全領域をカバーし、より多くの安心を提供すること。今までの私どもは、リスクを見える化する「現状把握」に注力する一方、「対策・実行」と「避難」については間接的な関わりしか出来ませんでした。防災の全領域での取り組みによって“被災を半分に、安心を2倍に”という目標を掲げて行動しています。
3点目は、「災害大国日本独自のビジネスモデルを事業化し、海外展開を目指す」。まだ少し時間はかかると思いますが、中・長期の目標として、アジアを中心とした海外に展開し、世界全体での防災・減災に取り組みたいと考えています。
防災の全領域に取り組もうと考えたとき、当社が比較的得意な部分は「現状把握」と「生活再建」です。残りの領域を実現するために、業界を越えて集まった皆さんとともに一気通貫の対策を出せるようにコンソーシアムのかたちを起案したというのが、「CORE」発足の経緯です。
インタビューの他の記事
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方