コロナ禍によって、企業は多くの影響を受けている。こうした影響は新たなリスクの発生を引き起こしている。こうしたリスクには、サプライチェーンでの新しい課題など、多様なものがあるが、その中にヒューマンリスクも存在する。企業にとっては、人材リスクも含めて、改めてヒューマンリスクに対応することが求められている。これら新たなヒューマンリスクの動きは、損保業界での最新のトレンドとして把握することもできる。こうしたリスクは損害保険の請求につながるからである 。

ストレスから生じるメンタルヘルス

最も大きいものは、ストレスから生じているメンタルヘルスへの懸念である。コロナウイルスへの感染は、死亡率の高さも相まって多くの不安やストレスをもたらしている。自分が感染しないように気を付けるばかりでなく、家族や友人が感染に苦しむ姿を見ることは身体的な安全ばかりでなく、医療費といった経済的な負担に対する不安も引き起こす。加えて、こうしたストレスからの心的外傷後ストレス障害(PTSD)によって、薬への依存を高める人たちも増加しているという。これらのすべてがメンタルヘルに影響を与えている。

しかも、場合によっては、リスクマネージャーはこうした従業員をケアするために彼らに接触することが求められることもある。こうしたケアは人事部門や経営陣との連携を必要とするため、直接的なリスク対応だけでなく、より多くの仕事を必要させる。とはいえ、こうした組織的な対応は従業員全体の組織へのコミットメントや信頼にもかかわることであることから、必要不可欠の仕事である。しかし、対応を一歩間違えば、米国では訴訟に結びつくこともありうる。コロナ対応だけでなく、仕事量からくるストレスもより多くなるため、リスクマネージャーだけではなく、多くの従業員が自身のストレスをコントロールすることを学ばねばならないかもしれない。メンタルヘルにより精通することが、リスクマネージャーに求められる。

価値観の変化による大量離職

米国では、大量離職という問題にも見舞われている。これもヒューマンリスクである。すでに人々は働くことに対しての価値観を変化させ、高い報酬だけではなく、仕事と生活の調和にもより多くの価値を置くようになってきていた。コロナがその動きを加速させているといわれる。労働力の確保といったリスクを認識し、これに対応することも必須となる。

問題は、それだけではない。こうした離職に関連して、残された人材にも仕事上での多くの負荷がかかる可能性があることで、それが過労、注意不足をもたらし、労働災害に至ることもありうる。単に離職する人だけではなく、離職を選択しなかった人にも、燃え尽き症候群を含んだ、多様なリスクが存在することも認識しなければならない。