内部通報があれば防げたと思われる不祥事も多い(写真:写真AC)

本年6月1日から改正公益通報者保護法が施行されます。「事業者自ら不正を是正しやすく」「通報を行いやすく」「通報者が保護されやすく」を観点に、現行法にない規定が「条」レベルでいくつか新設されました。11条「事業者がとるべき措置」もその一つ。内部公益通報体制の整備義務を定めているところをみても、法改正の大きな眼目がそこにあるといえるでしょう。企業はこれを規制ととらえず、ポジティブに転換する姿勢が重要です。弁護士・公認不正検査士の山村弘一氏に寄稿をいただきました。

東京弘和法律事務所/弁護士・公認不正検査士 山村弘一

弁護士・公認不正検査士/東京弘和法律事務所。2006年慶應義塾大学文学部人文社会学科人間関係学系社会学専攻卒業、09年同大学大学院法務研究科法学未修者コース修了、10年弁護士登録、21年公認不正検査士(CFE)認定。一般企業法務、一般民事事件等を取り扱っている。スポーツ法務についても、アンチ・ドーピング体制の構築をはじめとして、スポーツ・インテグリティの保護・強化のための業務に携わった経験を有する。また、通報窓口の設置・運営、通報事案の調査等についての業務経験もある。

公益通報者保護法の制定と改正の経緯

公益通報者保護法は平成16年(2004年)に制定され、同18年(2006年)に施行されました(以下、現行法)。制定の背景・理由は「食品偽装やリコール隠しなど、消費者の安全・安心を損なう事業者の不祥事が、組織の内部からの通報を契機として相次いで明らかになったことを受け、事業者の法令遵守を推進し、国民の安全・安心を確保するため」(「公益通報者保護専門調査会報告書」(平成30年12月、消費者委員会公益通報者保護専門調査会)、3頁)等と説明されています。

公益通報者保護法の施行後も不祥事があとを絶たない(写真:写真AC)

しかしながら、こうしたこととは裏腹に、現行法が施行された後も企業不祥事の発生が絶えませんでした。その中には、当該不祥事に関与していたり、知っていたりする従業員からの内部通報があれば未然に防ぐことができていた、あるいは不祥事の拡大を抑えることができたのではないかと思われるものがありました。

また、内部通報があっても、それが適正・適切に対処されていないものもありました。つまり現行法が必ずしも有効に機能していないと思われる状況にあったといえます。

そうした状況を受けて、平成30年(2018年)1月、現行法について「同法の施行状況を踏まえ、事業者におけるコンプライアンス経営、国民の安全・安心の確保に向けた取組の重要性の高まりを始めとした社会経済状況の変化への対応等の観点から、公益通報者の保護及び国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、規律の在り方や行政の果たすべき役割等に係る方策を検討すること」(「諮問書」、消制度第216号、平成30年1月15日)という諮問が、内閣総理大臣から消費者委員会に対してなされました。

社会経済状況の変化を受け、公益通報者保護法の見直しが動き出す(写真:写真AC)

同諮問を受けて、消費者委員会は、公益通報者保護専門調査会を再開し(これが第2次と位置づけられています)、同調査会の審議の結果を取りまとめ、平成30年(2018年)12月に「公益通報者保護専門調査会報告書」を公表しました。そして、これを参考に消費者庁を中心に改正法案の策定作業が進められ、政府による法案提出、衆参両院での審議を経て、現行法の改正法が令和2年(2020年)に成立しました(以下、改正法)。

そして、いよいよ本年・令和4年(2022年)6月1日から、改正法が施行されます。