2022/05/02
寄稿>改正公益通報者保護法を読み解く

6月1日から施行される改正公益通報者保護法は、形式的・実質的にみて、事業者における内部公益通報体制の整備義務を定めた改正法11条が重要な眼目の一つといえます。弁護士・公認不正検査士の山村弘一氏による寄稿の後編では、改正法が定める内部公益通報体制の整備義務の概要を紹介したうえで、企業がガバナンス構築・コンプライアンス確保の手段としてこれを積極的に展開することの重要性を説明します。
東京弘和法律事務所/弁護士・公認不正検査士 山村弘一
はじめに
公益通報者保護法は平成16年(2004年)に制定、同18年(2006年)に施行され(以下、現行法)、その後、改正作業・国会審議を経て、改正法が令和2年(2020年)に成立し(以下、改正法)、いよいよ本年・令和4年(2022年)6月1日から施行されます。
改正法を眺めたとき、本稿前編でご説明したとおり、形式的・実質的にみて、事業者における内部公益通報体制の整備義務を定めている改正法11条が、今般の改正における重要な眼目のひとつであるといえます。
後編である本稿においては、まず改正法で定められた内部公益通報体制の整備義務の概要をご紹介したうえで、内部公益通報体制をガバナンスの構築・コンプライアンスの確保の手段として積極的に捉えて展開することの重要性についてご説明したいと思います。
内部公益通報体制の整備義務

事業者は、①公益通報を受け、通報対象事実の調査をし、その是正に必要な措置をとる業務(公益通報対応業務)に従事する者(公益通報対応業務従事者)を定めなければならず(11条1項)、②公益通報者の保護を図るとともに、公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければなりません(同条2項)。
なお、この①②の義務については、常時使用する労働者の数が300名以下の事業者については努力義務になっています(11条3項)。
そして、上記①②の義務に関して、③内閣総理大臣が必要があると認めるときは、事業者に対して、報告を求めたり、助言・指導・勧告をすることができるとされ(15条)、④この③の勧告に従わなかったときにその旨を公表することができる(16条)とされており、事業者の義務履行を担保するための仕組みが法定されているといえます。
また、上記①②の義務の具体的な内容に関しては、「内閣総理大臣は、第1項及び第2項(中略)の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(中略)を定めるものとする」(11条4項)とされています。
そして、同条項に基づくものとして、「公益通報者保護法第 11 条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第 118 号。以下、指針)が策定・公表されています。
指針は、「改正法11条1項および2項に定める事業者の措置義務の内容を具体化したものであり、法的拘束力がある」(五味祐子、「公益通報者保護法に基づく指針のポイントと企業が留意すべきこと(1)」、NBL1208号5頁、商事法務)といえますから、これを理解し、その内容に沿った内部公益通報体制を整備する必要があることになります。
これについて、改正法11条2項の義務については、指針において、大要、次のような項目等が置かれています。
ただ、指針は、「事業者がとるべき措置の大要が示されている」ものであるため、「事業者がとるべき措置の個別具体的な内容については、各事業者において、指針に沿った対応をとるためにいかなる取組等が必要であるかを、(中略)主体的に検討を行った上で、内部公益通報対応体制を整備・運用することが必要である」とされています。
そして、「事業者におけるこのような検討を後押しするため」に、「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」(令和3年10月、消費者庁。以下、指針解説)が策定・公表されています(上記の引用部分はいずれも指針解説2頁)。
つまるところ、実務においては、㋐改正法及び指針を解釈・理解し、その定めに沿った対応をすることが必要であり、㋑その対応の際には、内部公益通報体制の整備については指針解説を参考にしつつ、事業規模等に応じて具現化していく、ということになります。
- keyword
- 改正公益通報者保護法
- 内部通報制度
- ガバナンス
- コンプライアンス
寄稿>改正公益通報者保護法を読み解くの他の記事
- 改正公益通報者保護法の着眼点(後編)
- 改正公益通報者保護法の着眼点(前編)
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方