2022/05/18
インタビュー
ちょっとした段差などを乗り越えるのも一苦労な車椅子が、山道などの険しい道でも走れるようになる。こんな夢のような商品「けん引式車椅子補助装置 JINRIKI」を開発したのが中村正善氏。2011年年3月の東日本災害をきっかけに「少しでも人の命を救いたい」という強い思いから、脱サラをして株式会社JINRIKIを設立。人力車のように車椅子を引っ張ることができる世界初の商品を生み出した。商品開発も営業も福祉も全くの未経験の世界に挑戦したいきさつを聞いた。
(危機管理ビジネスEXPOに製品掲載)

私は元々物も作ったことないし、営業もしたことがない、福祉のことも知らない、普通のコンピュータを扱うサラリーマンでした。ただ、障がい者の弟がいました。子供の頃は、弟の車椅子を押して原っぱなどに遊びに行ったものです。原っぱに行くと車椅子はほとんど動かなくなる。ですから前輪を高く持ち上げて、大きなタイヤだけで動き回る技を使っては弟を楽しませたものです。残念ながら弟は中学生にして夭逝しました。体が弱かったのです。その後は、何十年も車椅子とは全く縁のない生活をしていました。
車椅子は16世紀に発明され19世紀には一般に普及し始めましたが、その後150年間、形はほとんど変わっておりません。大きなタイヤが二つ後ろにあって小さなタイヤが前に二つある。座った状態で人間の大きな体を支え、じっと動かないでいられるようにするにはこの方法が一番適しているからです。しかし、前輪が小さいため段差などは乗り越えることができない。タイヤが大きければ段差も乗り越えられるのですが、安定性を重視するため走破性を犠牲にせざるをえないのです。
地域活性化に障がい者を呼び込みたい
サラリーマンになって、コンピュータの仕事に携わっていたころ、長野県の上高地を活性化させるプロジェクトを任せていただいたことがあります。コンピュータとは全く関係がない仕事でしたが、もともと好事家だったこともあり、挑戦してみることに。考えたのが、ここに来たくても来れない人にこそ、この素晴らしい自然を楽しんでほしいということ。思い描いたのは、障がい者や高齢者の方々です。障がい者や高齢者が来てくれれば介助の方も数人付いてきてくれます。経済効果も少なくない。ただしバリアフリーどころか、健常者でも大変な山道ですから、普通の車椅子では通れるはずがない。世界中のあらゆる車椅子を物色しましたが、タイヤが太いタイプがあるくらいで山道を登れるようなものはありませんでした。それで、前輪を持ち上げたまま動かすことができるような商品を開発できないかと考えたわけです。
東日本大震災での決意
ただ、私は物も作ったことなど一度もないし、販売したこともない。結局、諦めざるを得ませんでした。ちょうどその時に発生したのが東日本大震災です。犠牲になられた方の中には障がい者の方も多かったと聞き胸を痛めました。もし、車椅子を手軽に牽引できる装置があれば多くの命を救えるかもしれない。そう思ったとき、全てを投げ出してでも、これまで認めてきた車椅子の避難補助装置を本気で開発しよと覚悟を決めました。
インタビューの他の記事
おすすめ記事
-
「自分の安全は自分で」企業に寄り添いサポート
海外赴任者・出張者のインシデントに一企業が単独で対応するのは簡単ではありません。昨今、世界中のネットワークを使って一連の対応を援助するアシスタンスサービスのニーズが急上昇しています。ヨーロッパ・アシスタンス・ジャパンの森紀俊社長に、最近のニーズ変化と今後の展開を聞きました。
2025/08/16
-
白山のBCPが企業成長を導く
2024年1月1日に発生した能登半島地震で震度7を観測した石川県志賀町にある株式会社白山の石川工場は、深刻な被害を受けながらも、3カ月で完全復旧を実現した。迅速な対応を支えたのは、人を中心に据える「ヒト・セントリック経営」と、現場に委ねられた判断力、そして、地元建設会社との信頼関係の積み重ねだった。同社は現在、埼玉に新たな工場を建設するなどBCPと経営効率化のさらなる一体化に取り組みはじめている。
2025/08/11
-
三協立山が挑む 競争力を固守するためのBCP
2024年元日に発生した能登半島地震で被災した三協立山株式会社。同社は富山県内に多数の生産拠点を集中させる一方、販売網は全国に広がっており、製品の供給遅れは取引先との信頼関係に影響しかねない構造にあった。震災の経験を通じて、同社では、復旧のスピードと、技術者の必要性を認識。現在、被災時の目標復旧時間の目安を1カ月と設定するとともに、取引先が被災しても、即座に必要な技術者を派遣できる体制づくりを進めている。
2025/08/11
-
アイシン軽金属が能登半島地震で得た教訓と、グループ全体への実装プロセス
2024年1月1日に発生した能登半島地震で、震度5強の揺れに見舞われた自動車用アルミ部品メーカー・アイシン軽金属(富山県射水市)。同社は、大手自動車部品メーカーである「アイシングループ」の一員として、これまでグループ全体で培ってきた震災経験と教訓を災害対策に生かし、防災・事業継続の両面で体制強化を進めてきた。能登半島地震の被災を経て、現在、同社はどのような新たな取り組みを展開しているのか――。
2025/08/11
-
-
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/08/05
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/08/05
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方