この連載は、事故や災害など突発的な危機が発生した際にどう対応すべきかを、架空の地域サッカークラブが危機に直面したというストーリーを通して、危機対応のポイントを分かりやすく紹介していきます。

 

紅葉山FCが利用している市営グラウンドが、近隣住民からの苦情によって使えなくなってしまったため、紅葉山FCでは他の利用団体や様々な関係者の協力も得ながらグラウンドの利用再開を目指しています。しかしながら、苦情を訴えた住民が誰なのかは分かっておらず、一方で苦情の原因となった騒音や迷惑駐車に関しては、紅葉山FCや野球チームの中で心当たりのある人がいないため、いまだに事実関係の確認すら出来ていません。

住民からの苦情を直接聞いたという自治会長の藤田ともようやく面談できたのですが、藤田も現場にいた訳ではないため、詳しい情報は得られませんでした。

ところがその翌週、自治会長の藤田から高宮監督に唐突に電話があったので、高宮監督は渉外担当の近藤とともに再び藤田宅を訪問しました。

高宮:ご連絡いただきましてありがとうございます。

藤田:どうもご苦労さまです。こないだお会いした後で例の件を聞いてみたんですけどね、まず騒音というのは、水曜日の練習時間が終わった後に、帰り道を歩きながらの会話がうるさかったという事でした。これが毎週のように続いていたと。それから、迷惑駐車も水曜日の夜だそうですよ。いつもテレビで、あれ何だっけ、何とかっていう芸人が出てる番組が始まる前だから覚えてるって。あの芸人何だっけな....。

高宮:水曜日でしたか、ありがとうございます。そうすると恐らくフットサルグループですね。

近藤:市営グラウンドを夜間枠で利用している団体は、だいたい曜日ごとに固定化してまして、火曜日は野球チーム、水曜日はフットサルグループ、我々紅葉山FCは木曜日なんです。だから迷惑行為の原因はフットサルグループということに.....。

藤田:つまり、あなたたちは関係無いって言いたいのね?

高宮:いえ、そういう事を言いたいわけではなくてですね、市営グラウンドの各利用団体が協力しあって問題を解決していきたいと考えておりまして......

近藤:それで野球チームの方とは既に話し合いを進めているんですが、フットサルグループとは話し合いが出来ていないんです。我々と野球チームとの間では、原因は恐らくフットサルグループだろうという推測をしているのですが、彼らの協力が得られないので、その辺が確認できていないという状況でして...。

藤田:状況は分かりましたよ。で、どうするつもりなの?

高宮:中途半端な言い方になるかも知れませんが、フットサルグループは既に別のところに練習場所を移しましたので、これで住民の皆さんが納得していただけるかどうか、藤田さんの方からもう一度お話しいただけないでしょうか?

藤田:分かりました。話してみますよ......。

翌日、藤田から市営グラウンド近隣住民の方々に事情を説明したところ、住民の中でグラウンドの利用再開に関して最も否定的な方々の意見は、「今まではフットサルグループだったかもしれないが、今後他のグループでも同じようなことが起きかねないので、今後も夜間利用は許可しないでほしい」という事でした。

この日は紅葉山FCの練習日だったため、高宮は練習後のミーティングで、これまでに分かった状況をメンバー全員に伝えました。メンバーからは様々な意見が出されましたが、以前に比べて状況がある程度分かってきたことから、サッカー協会のアドバイザーや市の担当者、野球チームと情報を共有した上で、あらためて今後の対策を話し合うことになりました。