心斎橋PARCO・大丸心斎橋店

J.フロント リテイリング(東京都中央区、好本達也取締役兼代表執行役社長)は、老舗百貨店を経営していた大丸と松坂屋ホールディングスが統合し2007年に設立。2012 年にはファッションビルを展開するパルコを子会社化し、全国の主要都市で大丸松坂屋やパルコなどを展開する。2017年には百貨店とは異なるコンセプトの商業施設「GINZA SIX」をオープンさせた。2022年2月期決算で2年ぶりに黒字転換を果たした同社は、企業価値を高める戦略的なリスクマネジメントに力を注いでいる。
記事中写真・図提供:J.フロント リテイリング

J. フロント リテイリング
東京都

※本記事は月刊BCPリーダーズvol.26(2022年5月号)に掲載したものです。

事例のPoint

❶リスクを企業の成長に生かす考え方に転換

・利益の減少を防止するリスクマネジメントから企業価値を高めるリスクマネジメントへと方針を転換。プラスとマイナスの両面からリスクをとらえ直し、成長戦略に連動させる
 

❷戦略的に取り組むべき企業リスクを選定

・経営に大きく影響する重要度の高いスクを選定。「企業リスク」として重点的・戦略的に取り組むことで、ハザードやオペレーションにかかる不測のリスクもグループ一本化の体制が取りやすい
 

❸リスク定量化の精度上げレベルアップ

・リスクへの対応方針・姿勢をより明確にするため、定量評価の精度をさらにレベルアップ。積極的に開示し、グループ各社の連携とステークホルダーからの信頼につなげる

リスクを企業の成長に生かす

2022年2月期の最終損益が43億円となり2年ぶりに黒字転換を果たしたJ.フロント リテイリングは、リスクを戦略につなげるリスクマネジメントに力を注ぐ。きっかけは、上場企業のガバナンスのために金融庁と東京証券取引所が策定したコーポレートガバナンス・コードの導入。利益の減少を防止するリスクマネジメントから、企業価値を高めるリスクマネジメントへと方針を転換した。

これはリスク認識を一新する出来事だったという。同社経営企画部・内部統制/リスク管理担当の廣政由香氏は「従来の危機管理を、リスクのプラスとマイナスの両面からとらえ直し、企業の成長に生かす考え方に変わりました」と語る。

現在、同社は企業の存続に関わる、経営戦略的視点からみて重要度の高い「企業リスク」と、各事業に普遍的な「JFRグループリスク」の2つに分けてリスクを管理している。

「企業リスク」の一例を挙げると、経営に最も大きな影響を与える企業リスクの一つが「既存の事業モデルの衰退」。これに対してはマイナス面を「中核事業の業績低迷によるグループ全体の活力低下」、プラス面を「中核事業の事業モデルの抜本的な変革による再成長」ととらえ、対策にコンテンツの魅力向上やデジタルとの融合を挙げて成長につなげようとしている。