被災地への食事運搬用のドローンを持ち上げる富士産業株式会社業務本部品質管理部危機管理課の西村氏

2025年4月、全国の医療・福祉施設を中心に給食サービスを展開する富士産業株式会社(東京都港区)が、被災地における「ラストワンマイル問題」の解消に向けドローン活用の取り組みを始めた。「食事」は生命活動のインフラであり、非常時においてはより一層重要性が高まる。全国約2000件以上の病院、介護施設、学校、社員食堂の献立の企画・開発から食材の調達、調理まで一貫受託する富士産業株式会社の業務継続は、企業活動を超えた使命がある。そのため、同社は現在大型のキッチンカーを3台所有し、これまで東日本大震災、熊本地震、能登半島地震にも派遣してきた実績がある。大規模災害時の事業継続体制の強化と、ドローン活用のねらいを業務本部品質管理部危機管理課の西村友裕課長に聞いた。

 

能登半島地震で痛感した「ラストワンマイル問題」

ドローン導入のきっかけは、2024年1月1日に発生した能登半島地震だった。同社の北陸事業部(石川県金沢市)が最前線指揮所となり、熊本地震を契機に会社が定めたBCPに基づいた支援活動を開始した。翌日の1月2日は要支援事務所に応援スタッフの先発隊が到着。1月半ばには被災事務所での食事運用に関する目途が立つと、自治体の要請に基づいて志賀町役場などでキッチンカーを活用した炊き出しを実施。1月23~29日の7日間に、2カ所で合計3706食を提供した。

西村氏も先発隊として現地入り。活動する中で見えた課題が被災地区までキッチンカーを搬入したにも関わらず、現地に辿り着けない「ラストワンマイル問題」だった。「震災直後の道路の損傷のほか、能登半島特有の袋小路な地形、様々な災害支援活動などの兼ね合いなど、キッチンカーの搬入が困難なケースがありました。また、孤立した地区に薬や物資が届けられないといった情報も入り、BCPの領域を超えた課題に直面しました。私はもちろん、現場の状況を知った上長も同じ課題を共有しており、その解決策としてドローン活用が浮かび上がってきたのです」

2025年8月現在、同社のドローン運用員は計2名。危機管理課の西村氏が操縦者ともう1名がドローンのパイロットとして配置されている。ラストワンマイル問題への取り組みとしてドローンの導入検討が始まったのは2024年4月頃。プロジェクトが始まって間もなく大型の展示会で出会った株式会社ヘリフライトの協力を得て、ドローンの選定はもちろん、資格の取得や運用体制の構築などについて計画を練った。数々な協議や運用を検討し、社内取締役会の承認を経て、約1年後となる2025年4月にマゼックス社の運搬ドローン「森飛morito15(以下、森飛15)」を導入した。2025年8月現在、運用実績はないが「災害下での孤立集落に対する食事供給、薬などの医療物資同時搬送」を目標に掲げて、トレーニングや社内外の体制構築を進めている段階だ。

ドローンによる食事運搬の試験(写真:富士産業提供)