効率性やコストパフォーマンスにとらわれると安全がおろそかに(写真:写真AC)

■ありえない登山計画を立てた後輩くん

ある日、ハルトの会社の後輩、S君がゾンビのようにヨタヨタと足を引きずって廊下を歩いているのを見かけました。S君はハルトに触発されて登山を初めて2年ほど経ちますが、最近はハードな登山に凝り始めていて、ハルトよりもひんぱんに山に通っているようです。

少し様子が変だぞと感じたハルトは、S君に声をかけました。すると次のような返事が返ってきました。

「センパイにこんな姿を見られるなんて情けない。今回ばかりはほんとうに自分はどうかしていました…」と、いかにも身の上話を聞いてほしいという顔で訴えかけてきたのです。

ハルトはS君を昼食に誘い、興味津津で彼の話を聞くことになりました。しかしその話というのは、山のリスクマネジメントの観点から言えば、よほど体力や脚力に自信がない限りやってはいけないことだったのです。

行程を短縮できればコストパフォーマンスはよいだろうが(写真:写真AC)

それはS君が登山計画を立てていたときのことです。彼はジレンマに陥っていました。今回はどうしても南アルプスの白峰三山(北岳、間ノ岳、農鳥岳)を縦走してみたいが休みは2日間しかとれない。標準的な行程では2泊3日かかるが、山小屋に2泊もすると出費が嵩みすぎるし有給休暇をとるのももったいない、なんとか1泊2日で決着をつける方法はないか…。

ところが、登山者交流サイトでいろいろな山行記録を調べていくうちに、1日で三山を踏破してきたという投稿記事がいくつも見つかったのです。それらは、例えば夜中に麓の起点を出発し、一気に9~12時間かけて三山を縦走し、翌日の昼には終点へ下山するというもの。

「山中泊はせず往復の交通費のみなので時間効率とコスパ(コストパフォーマンス)は最高なんですよ」

「ええっ? 1日で白峰三山を駆け抜けるなんて…それってトレイルランニングの投稿記事じゃないのかい?」とハルト。