長く続いた品質不正ーダイハツ工業の報告書から読み解く
第4回 開発納期至上主義の企業文化を変えるには?

鈴木 英夫
慶應義塾大学経済学部卒業。民族系石油会社で、法務部門・ロンドン支店長代行・本社財務課長など(東京・ロンドン)。外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務め、危機管理広報・リスクマネジメントを担当(大阪)。現在は、GRC研究所代表・研究主幹、リスクマネジメント&コンプライアンス・コンサルタント(兵庫)。日本経営管理学会会員、危機管理システム研究学会会員。
2023/12/24
ニュースから探るリスクマネジメントのABC
鈴木 英夫
慶應義塾大学経済学部卒業。民族系石油会社で、法務部門・ロンドン支店長代行・本社財務課長など(東京・ロンドン)。外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務め、危機管理広報・リスクマネジメントを担当(大阪)。現在は、GRC研究所代表・研究主幹、リスクマネジメント&コンプライアンス・コンサルタント(兵庫)。日本経営管理学会会員、危機管理システム研究学会会員。
三菱重工業、日野自動車や三菱電機のケースでもそうであったように、品質不正は企業文化に根付いている。ダイハツのケースの背景には、その文化ゆえに「開発期間に間に合わせるため」という金科玉条で不正を正当化することになった。
2023年12月20日に公表された第三者委員会による調査報告書では、くるま開発本部及び法規認証室の役職員3696名へのアンケート調査の結果上位3つは次のような要因(複数回答可)が指摘されている。
1) 開発スケジュールが過度にタイトになる傾向 2886名=79.9% |
すなわち、「決められた開発日程はどんなことがあっても変更することは許されなかった」ということである。自由回答欄には次のような切実な事情が描かれている。
・相当なプレッシャーがあったと思います。(中略)総じてトヨタの期待に応えるためにダイハツの身の丈に合わない開発を、リスクを考えずに推し進めたことが大きな要因だと思います。 ・今回の根本的な発生原因は、(中略)主にはタイトな開発日程にあると考える。トヨタや競合他社ではもう少し長い期間をかけた開発を実施しているのに対し、自社はコスト重視を意識しすぎなため(=シンプル・スリム・コンパクトに囚われすぎなため)に今回の事例が発生したと感じた。 |
さらに、組織風土に関しても切なる訴えが伺える。
・開発日程を遅らせることは絶対に NG の風潮が強く、日程に間に合わないと感じ手を挙げると、「なぜ間に合わないのか」、「どうしたら間に合わせられるのか」、「今後どうするのか」の説明に追われ、設計に注力したくて手を挙げたのに、その他の業務が一気に増えることが目に見えている。 ・日程や工数不足の情報自体は上位職や経営陣に伝わっているが「で、どうするの?」という風潮から、開発スケジュールを長くすることや積極的な人員補充という解が最初から排除されているため、必然的に「今ある工数でどうにかする」というパワープレイになり、無理が蓄積しているように感じる。 |
調査報告書では「ブラックボックス化した職場環境」として、下記の点も挙げている。
・認証試験の担当者が絶対合格のプレッシャーに晒され、現場レベルでの解決を迫られる状況になったとしても、業務に対する適切なチェックが行われる状況であれば、不正やごまかしによる解決は困難であるが、特に衝突安全試験の領域は職場環境がブラックボックス化しており、不正やごまかしを行っても見つからない状況にあった。 ・実際、本件問題では、認証試験の試験項目の中でも衝突安全試験の担当者による不正行為が多発しているが、衝突安全試験の分野は極めて専門性が高く、2013 年以降、衝突安全試験の試験項目の多くについて、①実験業務、②実験結果の計測値・写真等生データから実験報告書を作成する業務、③実験報告書から認証申請書類としての試験成績書を作成する業務のいずれも安全性能担当部署が担当していた。 ・ポール側面衝突試験に関する不正行為は、ダイハツが実施した社内調査の過程において、認証申請で当局に提出した試験成績書と社内試験の成績書である実験報告書の記載に矛盾があることから容易に発見されており、逆にチェック体制があれば未然防止された可能性が高い。 |
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