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今回紹介させていただく報告書は、米国を中心とした世界各国のビジネスリーダー(注1)747人を対象としたアンケート調査の結果から、ERM(Enterprise Risk Management:全社的リスクマネジメント)(注2)への取り組み状況を把握しようとするものである。副題に「Managing the Rapidly Evolving Risk Landscape」と謳われているとおり、新型コロナウイルスによるパンデミックやウクライナ侵攻などといった情勢も含めて、変化が激しく先を見通すのが困難な状況をいかに乗り切っていくのかという問題意識が、本調査の根底にある。

調査はノースカロライナ州立大学のプール経営学部(Poole College of Management)に設置されている研究機関であるERM Initiativeと、米国公認会計士協会(AICPA & CIMA)との共同で行われており、報告書は下記URL(米国公認会計士協会のWebサイト)から無償でダウンロードできる。
https://www.aicpa.org/professional-insights/download/2022-global-state-of-enterprise-risk-oversight-5th-edition
(PDF 21ページ/約 4.4 MB)

調査の中心となっているのはERM InitiativeのBeasley博士とBranson博士の2名であり、両者とも本連載で過去に紹介させていただいたERM Initiative と Protiviti との共同調査(注3)にも名を連ねていることから、ERMの分野に関して継続的に調査研究に取り組まれている方々だと思われる。

図1は、自社で「完全なERMのプロセスが整っている」と回答した人の割合を、地域別に示したものである。多少のバラツキはあるものの、回答者の半分以上は、自社のERMが何らかの形で不完全、もしくは満足できる状況ではないと認識していることが分かる。

画像を拡大 図1.  自社で「完全なERMのプロセスが整っている」と回答した人の割合 (出典:The ERM Initiative at NC State University and AICPA & CIMA / 2022 Global State of Enterprise Risk Oversight)

筆者としては、特に米国企業においてはERMの導入が進んでいるという先入観があったので、図1の結果は意外であった。このくらいの規模の調査では上下数パーセントは誤差の範囲だと考えられるが、2015年からの経過を見ても順調に増加しているとは言いがたい。米国でトレッドウェイ委員会組織委員会(COSO)が初めてERMの統合的フレームワークを発表したのが2004年であり、これ以降に多くの企業がERMに取り組んできたと思われるが、これを完全な形で導入できたと自信を持って言える企業はまだまだ少ないということは、ERMに取り組むことの困難さの表れだとも考えられる。