2022/12/22
寄稿

「かっぱ寿司」運営会社の社長が以前在籍していた会社の営業秘密を不正に持ち出したとして逮捕、起訴された事件。【前編】では営業秘密の侵害に関する刑事罰に焦点をあてましたが、今回の【後編】では犯罪の成否判断の前提条件となる「営業秘密」について整理します。どのような情報が「営業秘密」に該当するのか、弁護士・公認不正検査士の山村弘一氏に解説いただきました。
東京弘和法律事務所/弁護士・公認不正検査士 山村弘一
はじめに
不正競争防止法は、「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的」(1条)としている法律で、その「措置等」として、民事上の措置や刑事上の措置などが設けられています。
前編では、その刑事上の措置のひとつとして設けられている、営業秘密の侵害に対して不正競争防止法21条・22条で規定されている刑事罰ついて説明しました。
これらについては、いずれも「営業秘密」がその客体として規定されるなどしており、犯罪の成否の判断においては、「営業秘密」への該当性が問題となってきます。そして、この「営業秘密」については、同法2条6項に定義規定が置かれているため、この解釈が重要となってくることになります。
付言すれば、民事上の措置として設けられている、営業上の利益の侵害の停止または予防などを請求することのできる差止請求権(3条)や、営業上の利益の侵害により発生した損害の賠償を請求することのできる損害賠償請求権(4条)などについても、「営業秘密」該当性が問題になる場合があります。

というのも、差止請求権についても損害賠償請求権についても、いずれも2条1項各号で規定されている「不正競争」に該当することが要件のひとつとなっており、その「不正競争」には、不正の手段により「営業秘密」を取得する行為(同4号)や、その使用・開示をする行為(同5号)が規定されているため、差止請求権や損害賠償請求権を行使するには、「営業秘密」に該当することが必要となる場合があるからです。
このように「営業秘密」は、不正競争防止法に設けられている措置を検討・適用する上で、極めて重要な概念であるといえます。後編では、この「営業秘密」について説明したいと思います。
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