年度末に発行された福祉、防災関連のレポートから重要なものを紹介(写真:写真AC)

年度末の3月には、例年、行政等によるさまざまな報告書が発行される。そのなかから重要なものを紹介したい。今回は「介護施設の防災・減災ガイド」。これは一般社団法人日本医療福祉建築協会(JIHa)が厚生労働省の補助を受けて調査研究委員会を設置し、まとめたものだ。

このガイドは近年の自然災害で被災した介護施設の調査、施設職員へのインタビューにもとづいて、現実的な防災対策を「わかりやすく」示している。すでにHPにアップされているので、ぜひご覧いただきたい。

わたしとみんなをまもる 介護施設の防災・減災ガイド
https://bousai-fukushi.org/

まずは、職員や利用者の命をまもる3つの心構えがとても重要なので、ガイドから引用する。

1 自分の命をまもる
「自分は大丈夫!」と思っていませんか? 自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価してしまう特性が人間にはあります。災害は突如として襲ってきます。災害時を想定した備えが自分の命を守ります。

2 利用者の命をまもる
介護施設では「自力では逃げることができない人々」が生活しています。あなたの力がなければ逃げることができません。すべての利用者の避難が完了するまでには多くの時間が必要です。全員が無事に避難するためには災害に対する備えと訓練が必要です。

3 他人任せにせず、自ら行動を
日常の業務には、詳細なマニュアルや決まりごとがあります。しかし、災害時には予想できないことが数多く生じてきます。災害時に管理者の指示を待っていると、その間に被害が大きくなります。災害に備え、現場職員の指揮系統は常時明確化しておき、災害時には迅速に対応していくことが求められます。

特に3の「他人任せにせず、自ら行動を」がポイントだ。それには、事業継続計画(BCP)を作成し、日ごろの訓練により点検、見直しをして鮮度を保つことが重要になる。

ムービー

忙しい介護施設職員には、短い時間で効率的に情報を伝えることが求められている。そこで「映像」によるコミュニケーションを活用するために動画を収録している。映像には、なんと文字の5000倍の情報量があると言われている。また、話し手が聞き手に与える影響は言語情報が7%、聴覚情報が38%、視覚情報が55%の割合というメラビアンの法則もある。

そこで、このHPには研究者や被災した福祉施設職員の動画が収録されている。動画の概要を紹介する。

【自然災害と避難】

正常化の偏見と福祉職員のミッション[跡見学園女子大学 鍵屋 一]
緊急時の避難について重要なポイントを解説している。私が秋田弁を交えて話しているので、関心のある方はぜひご覧いただきたい。

災害の種類とハザードマップの見方[徳島大学 金井純子先生]
防災・減災の第一歩はあなたの『意識』からと解説している。
【体験談】

2018年西日本豪雨 36名を軽自動車で高台避難
[地域密着型特別養護老人ホーム クレールエステート悠楽 施設長 岸本祥一さん]

無駄足になってもいいと、堤防決壊前に高台に自動車避難をした。

2019年台風19号 深夜1時半からの垂直避難
[特別養護老人ホーム 川越キングス・ガーデン 伊藤桜子さん]

浸水経験があって心構えはできていたので、台風接近ということで深夜に入居者全員を隣接する避難棟へ誘導した。夜が明けると一面は水で覆われていた。

2016年熊本地震 4月の寒さの中、外で一晩を過ごす
[認知症対応型共同生活介護 株式会社南阿蘇ケアサービス 副代表 松尾弥生さん]

南阿蘇村は、交通の要となる橋の落下により、陸の孤島になった。まだ寒さが残る4月、利用者と職員が支え合って耐え抜いた。

2011年東日本大震災 45分で利用者50人と2階へ避難
[成仁杜の里仙台 副施設長 和賀明子さん]

津波が迫ってくる中、素早い判断により利用者、職員ともに全員が無事に2階に避難。危機を救ったのは、日頃からの訓練だった。

資料のダウンロード

紙資料のまとめもダウンロード可能(写真:写真AC)

とはいえ、何度も見直したり、実際に計画を立てたり、訓練をする際には紙資料も必要になる。そこでHPからは必要な資料がダウンロードできるようになっている。

(1)わたしとみんなをまもる介護施設の防災・減災ガイドブック
本研究の成果をコンパクトにまとめたガイドブック。ホームページよりも詳細な内容になっている。

(2)研究資料
・東日本大震災における高齢者施設の被災実態に関する調査研究報告書
・熊本地震による高齢者施設の被害状況に関する調査研究報告書

(3)関連資料
・自然災害発生時に備えた高齢者施設・事業者間の連携、地域とのつながり促進に向けた手引
昨年度の厚生労働省補助事業で研究した高齢者施設の連携に関する手引き。

今後も徐々に資料が追加されるとのことなので、引き続き注目していきたい。