前回に続き、2023年10月1日から開始予定のインボイス制度の注意点について、ネクセル総合法律事務所の藪木健吾弁護士に聞いた。今回は適格請求書の要件を満たさない取引などについて解説する。

藪木健吾弁護士

企業が締結している契約書はさまざまなものがあり、契約形態も取引によって多岐にわたるため、不動産の賃貸借契約のように契約書の締結後は請求書や領収書等を発行しない取引もあるかと思います。

このような取引も契約書の記載を修正せず、請求書や領収書等の発行を行う運用とすることも検討しないまま取引を継続していると、適格請求書の要件を満たさないため、仕入税額控除が受けられないといったことになりかねません。

では、どのように対応すればよいのでしょうか?

適格請求書は必ずしも請求書である必要はなく、明細書や領収書であっても構いません。要は、適格請求書の要件を満たす項目がもれなく記載されていればよいわけです。さらに、複数の種類の書類を組み合わせてインボイスの記載事項を満たすことも可能です。

そこで、①10月以降は契約書以外の他の書類に適格請求書として必要な記載事項を記載する、もしくは ②商慣習的に従前から用意している他の書類と組み合わせたときに適格請求書の要件を満たせるよう契約書に必要事項を記載する、といった対応を検討することが考えられます。

月まとめで支払通知書を交付するような請求レス取引のような場合、支払通知書全体で必要事項が記載されていれば適格請求書等の記載事項を満たすと考えられます。

また、不動産の賃貸借契約のような請求書や領収書の交付をしていない場合でも、適格請求書発行事業者の氏名や登録番号、役務内容等課税資産の譲渡等の年月日以外の事項を契約書に記載しておき、実際の取引が行われた通帳を保存しておくことにより、適格請求書の要件を満たすようにすることもできます。

取引によって保存するべき書類や基本契約書に記載するべき事項等が変わります。時には、支払通知書に取引先からの返品があった場合の記載を行っている場合もあり得るでしょう。この場合、支払通知書が適格返還請求書の要件を満たすかも検討しなければなりません。