BCM World Conference and Exhibition 2012 参加報告

写真を拡大インターリスク総研上席コンサルタント田代邦幸氏

寄稿 インターリスク総研 上席コンサルタント 田代邦幸

イギリスに本拠地を置く国際的な非営利団体であるBCI(The Business Continuity Institute)は11月7、8日の2日間、世界中のBCM関係者が一同に会する毎年恒例のイベント「BCM World Conference and Exhibition」をロンドンで開催した。

イベントの概要

本イベントはロンドンの西側にあるOlympia Conference Centerで行われ、主催者によると、40を超える国々から1000人以上の参加者が集まった。

今年で4回目の開催となるが、今回は初めての試みとして、本イベントのためにスマートフォン用アプリ(iPhone、iPad、Android対応)が用意され、開催直前に公開された(写真1)。このアプリにはセッションプログラムや出展者リスト、会場レイアウト図などが表示される機能が含まれており、来場者はアプリを活用して、自分の参加したいセッションを見つけたり、各展示ブースの位置を確認するなど、便利な機能に満足した様子だった(もちろん紙のプログラムも配布されている)。

イベントは、単に情報収集の場ではなく、参加者のネットワークを拡げる機会ということを大きな目的に掲げている。そのため、アプリには有料カンファレンス参加者のデータベースが含まれており、イベントで出会った相手と後日連絡を取り合うのに便利なように、自分が選択した相手だけに、自分の連絡先等の詳細情報を開示できるようになっている。

セッションプログラム

カンファレンス・ルームで行なわれた有料のカンファレンスには2日間で21のセッションが用意されていた。プログラムは表1のとおり3つのStream(グループ)に分かれていた。これらは前年を踏襲した形で、Stream AはBS25999で採用されているBCMライフサイクルの各フェイズに沿ったテーマが並べられ、比較的基礎的な内容になっていたのに対して、Stream Bには実践的なテーマ、Stream Cにはより先進的なテーマが揃えられた。一方、展示会場に設けられた3つのセミナールームでも、表2のように多彩なプレゼンテーションが行われた(聴講無料)。

非常に多くのセッションがあったので全てを紹介することはできないが、筆者が参加したセッションの様子をいくつか報告したい。

■Supply Chain Resilience

1日目の9時半から展示会場で行われた「Supply Chain Resilience」では、BCI本部のLee Glendon氏から、2012年7~8月に実施された同タイトルのアンケート調査の結果概要が報告された。調査によると、回答した企業の約2割が、過去12ヶ月の間に100万ユーロ以上の損失をもたらすサプライチェーン途絶を経験しているとの事である。また、過去12ヶ月間に最もサプライチェーンに対して深刻な影響を与えた要因としては、ITや通信サービスの中断や悪天候、外部委託業者のサービス中断等が挙げられている。なお報告書はBCIのWebサイトから無償でダウンロードできる。

http://www.thebci.org/index.php?option=com_content&view=article&id=121&Itemid=267

■ORGANISATIONAL RESILIENCE

また1日目の10時40分からカンファレンス・ルームで行なわれた「ORGANISATIONAL RESILIENCE」というセッションでは、「なぜレジリエンスは事業継続の将来ではないのか?(Why resilience is not the future of Business Continuity)」という、やや挑戦的なタイトルのプレゼンテーションが行なわれた。「resilience」という用語は海外のBCM関係者の間でも近年よく使われるようになってきたが、その定義や概念が定まっていないためか、参加者の間で賛否両論の激しい議論が展開され、セッション終了後もいくつかのテーブルでは居残って議論が続いていた。

BCM AND THE OLYMPICS – LESSONS LEARNED

2日目の午後2時らの「BCM AND THE OLYMPICS – LESSONS LEARNED」というセッションでは、リスク対策.com7月号でも取り上げられたロンドンオリンピックのBCMを振り返る内容で、これに関わった5名によるパネルディスカッションとなった(写真2)。パネラーの1人であるデロイトのRick Cudworth氏によれば、複数の組織が連携しながら運営していく巨大イベントにおける事業継続性を確保するために、BCMに関連する様々な机上演習を200回以上、シミュレーションを50回以上実施したとの事である。他にもBBCやBT(British Telecom)といった、オリンピックを支えた企業からパネラーを迎えて、参加者との間で活発な質疑応答があった。

また両日とも、昼休みの時間を使って3企業によるランチタイムセッションがあり、筆者は「LINK ASSOCIATES INTERNATIONAL」というコンサルティング会社のセッションに参加した。ここでは参加者が6つのグループに分かれて意見を出し合い、その場で演習シナリオを作るというワークショップを交えて、BCMにおける演習の企画、準備、実施、レビューの仕方等が解説された(写真3)。

なお筆者自身も展示会場におけるセミナーで、「Cooperative Approach to Improve Supply Chain Resilience」(サプライチェーンのレジリエンスを高めるための協調的アプローチ)および「Integration of BCMS with Other Management Systems」(BCMSと他のマネジメントシステムとの統合)という2つのプレゼンテーションを担当した。いずれも日本企業における実践事例を交えて説明したが、これらの分野に関心の高い参加者が各国から集まり、プレゼンテーションの後に活発な質疑応答や議論が続いた。

表1  カンファレンス・プログラム

9:00-

10:00

基調講演

Richard Reed, Vice President for Preparedness and Resilience Strategy, American Red Cross

STREAM A

BCM Lifecycle

STREAM B

BCM in Action

STREAM C

Thought Leadership

10:40-

12:00

BCM POLICY AND PROGRAMME

MANAGEMENT

Dave Arnott MBCI

Bridges Consulting Group Ltd

APPLYING BCM TO HIGH VALUE FIXED ASSETS

Susan O’Neil

Australian National University

David James-Brown FBCI

JBT Global

Business Continuity Consideration for Irreplaceable Assets

Gareth Jones MBCI

Crisisinterface Ltd

BCM for high value fixed assets – the right tools to gain appropriate strategies?

ORGANISATIONAL RESILIENCE

Charley Newnham MBCI

Bounce Forward Business Continuity and Continuum Resilience

Why resilience is not the future of Business Continuity

Dominic Cockram MBCI

Steelhenge Consulting and BCI Partnership

Resilience Working Group

Culture, behaviour and disciplines – mapping

the needs for a resilient organisation

13:15-

15:35

EMBEDDING BCM IN THE ORGANISATION’S CULTURE

Ian Charters FBCI

Continuity Systems Ltd

BCM STANDARDS –

THE PATH TO CERTIFICATION

Lynda Vongyer MBCI

Implementing a standard in your organisation

Dhiraj Lal MBCI

CORE

Certifying your BCM programme – an analysis across geographies

FINDING BLACK SWANS

THROUGH SCENARIO ANALYSIS AND WAR GAMING

Emma Perry

Crisis Solutions

The Application of Scenario Analysis to business continuity and crisis management planning

15:10-

16:30

UNDERSTANDING YOUR ORGANISATION

Graham Vingoe FBCI

T-Systems Ltd

AWARENESS RAISING IN ORGANISATIONS

Rob McAssey AMBCI

adidas Group

Laura Brattan

Ear Productions

adidas Group Case Study:

On your Marks…Get set…

Marcin Drachal AMBCI

Human nature in implementing and maintaining BCM in large organizations

MEASURING AND BENCHMARKING BCM PROGRAMMES

Martin Caddick MBCI

PwC and BCI Partnership Measurement Working Group

What value are we trying to protect in BCM?

表2  展示会場でのプレゼンテーション・プログラム

(1日目)

セミナールーム1

セミナールーム2

セミナールーム3

9:30-

10:00

Supply Chain Resilience

Lee Glendon CBCI

Business Continuity Institute

10:45-

11:15

Towards BCM-Aware Media

Abdullah Al-Hour MBCI

Alinma Bank, Saudi Arabia

Train to Gain

Helen Molyneux MBCI

Cambridge Risk Solutions Ltd

PPA – Personal Password Algorithm

Mark Mahoney MBCI

Hewlett Packard

13:20-

13:50

The Journey to BC25999

Certification – Two Steps Forward and One Steps Back

John Lawson AMBCI

NHS Blood and Transplant

Continuology – The Science of

Evolution in the Business World

Jim Burtles Hon FBCI

Total Continuity

The BCM Parallel Organisation –

Structure and Reporting

Waleed Hammad

PROXC Consulting Ltd

15:15-

15:45

Supporting Crisis Management with a Practical Model

Michael Crooymans

Sogeti Nederland B.V.

Succession Planning: How to Tell Your CEO to Step Down in a Crisis

Geneviève Delage AMBCI

Computershare

Cooperative Approach to Improve Supply Chain Resilience

田代邦幸 MBCI

(株)インターリスク総研

(2日目)

セミナールーム1

セミナールーム2

セミナールーム3

09.50-

10.20

The Roles of KPI and KRI in Business Continuity

Paul Kirvan FBCI

Paul Kirvan Associates

Integration of BCMS with Other Management Systems

田代邦幸 MBCI

(株)インターリスク総研

Assessing BCMS Effectiveness Through Risk Based Audit Practices

William Byrne MBCI

Heffernn Global Services Inc.

11:40-

12:10

ISO 22301 – Review 6 Months on and the Transition From BS 25999-2

Tim McGarr

BSI

BC Test ... Failed Again ... Who's to Blame?

Daren Howell

SunGard Availability Services

Developing and Implementing

a BCM Response

Eve-Marie Cornier CBCI

Plante & Associates

14:05-

14:35

Risks and Scenarios Versus Resources

Rainer Hubert MBCI

Rex Management Systems GmbH & Co.KG

Executive Crisis Decision-Making

Dennis Flynn

Crisis Solutions

Resilience – Meaning, Mapping and Metrics

Robert Hall MBCI

G4S Risk Management

(両日とも、出展企業によるプレゼンテーションについては記載を省略した)


展示企業

展示ブースは前回から増え、41社からの出展があった。日本における同種のイベントと異なり、災害対策用品等の出展はほとんどなく、BCMに関する教育研修・トレーニングやBCM関連ソフトウェアの出展が多く見られた。このような傾向は例年通りであるが、今年は特にBCM関連ソフトウェアの新規出展が目立った。

表彰

1日目の夜には有名なマダム・タッソー蝋人形館に場所を移してディナーが催され(写真4)、この席上でBCMの普及啓発やBCIの運営など、様々な形で貢献した方々に対する表彰が行われた。受賞者のリストはBCIのWebサイトに掲載されている

http://www.thebci.org/index.php?option=com_content&view=article&id=344&Itemid=4157)。ちなみに昨年は宮城県の(株)オイルプラントナトリが「The most effective recovery of the year」を受賞した。

感想と今後への期待

筆者は今回で4年連続の参加となったが、海外のBCM関係者に知り合いが増えるに従って、お互いに協力しながらこのイベントを成功させよう、という仲間意識が見えるようになってきた。本イベントの運営には、BCI本部の常勤スタッフや役員だけでなく、各社から参加しているメンバーがボランティアとして、セッションのコーディネートやプレゼンテーションのレビュー、当日の進行など、様々な形で貢献している。またBCMに関連する多くの企業がスポンサーとして参加しており、運営側にもスポンサーの貢献度合いを分かりやすく表現したり、様々な機会でスポンサーへの感謝を表明するなどの気遣いが感じられた。このように様々な立場から集まった人々によるシナジーが、このイベントの成功を支え、BCM関係者のネットワーク拡大に貢献していると言える。

さらに特筆すべきなのは、前回にも増して国際色豊かになってきたということである。本部の発表によると今年は40カ国以上から参加者が集まっており、また筆者自身も実際にポルトガル、ヨルダン、南アフリカ、ガーナ、スロベニアといった様々な国からの参加者と議論を通じて、BCIのネットワークの広がりを実感した。今回は日本からの参加者は3名のみであったが、今後は日本からも多くの関係者が参加し、海外の多様な考え方に接するとともに、日本のノウハウを共有していく機会が増えることを期待する。次回は2013年11月6、7日の二日間、同じ場所で開催される予定である。