「超高齢化社会」への分岐点となる2025年問題に加え、IT分野では、企業に導入されているITシステムの老朽化や、運用・保守ができる人材の減少などが「2025年の崖」問題としてクローズアップされています。今回は、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が今年3月に公開した「DX白書2023」から、第5部「DX実現に向けたITシステムの開発手法と技術」について見ていきます。

■解説:DX実現に向けたITシステムの開発手法と技術

第52回の本連載でも述べましたが、レガシーシステムを使い続けること自体が、今後、大きなリスクになります。

DX白書2023においては、新たにレガシーシステムの状況と課題に関する設問を追加していて、まず、国内企業におけるレガシーシステムの状況は以下のようになっています。

【レガシーシステムの状況】出典:DX白書2023

これを見ると、半分以上レガシーシステムが残っている割合(「半分程度がレガシーシステムである」「ほとんどがレガシーシステムである」の合計)が、米国の22.8%に対して日本は41.2%であり、国内企業でのレガシーシステムの刷新が遅れていることは明らかです。

では、なぜ刷新が進まないのかを訪ねた設問において、米国と日本で大きな差が出た回答が以下になりました。

 レガシーシステム刷新・移行に長けたプロジェクトリーダーがいない(日本33.5%:米国14%)
 ブラックボックス化によりレガシーシステムの解析が困難(日本31.8%:米国22.3%)

【出典:DX白書2023 P280 図表5-28】

上記2つの課題に共通するのは、一言でいえば「人材不足」といえます。この人材不足については、DX白書の第4部で解説されていますので一読していただければと思いますが、自社にとって最も有効な人材の獲得方法は「社内でDX人材を育成する」方法に尽きると思います。これは、自社のDX推進のためにはITに関する知見だけでなく、自社の業務に関する知識や経験も必要になるという理由からです。ただし、時間がかかるというデメリットもあります。「人材育成する時間もノウハウもないので、外部から人材を集めるしかない」という企業も実際多いのではないかとも思います。 確かにプロジェクトを立ち上げた段階では社内にDXのノウハウがないため、外部人材を活用する必要があるかもしれません。

しかしながら、下記に挙げる理由から、社内でのDX人材の育成は最も企業にとって有用になると考えられます。

① 外部人材だけではリスクが高い

DX市場の伸展に伴い、IT人材の不足が顕著になってきていて採用のためのコストも高騰しています。また、そもそも採用できないリスクも今後高くなってくるでしょう。


② 全社の意識改革につながる

DX推進には全社員のDXへの理解が必要です。しかし、外部人材だけでDXを勧めようとすると外部と社内で考え方や習慣が違うため、軋轢が発生しがちになります。


③ 現場の意見を反映しやすく、スピーディーな対応ができる

外部人材だけでは、現場のリアルな状況や細かい問題点まで把握しきれません。新たなビジネスやサービスを立ち上げても実情にそぐわないものができてしまう可能性があります。


④ DXに関するノウハウを社内に蓄積できる

プロジェクトを外部人材だけで構成した場合、1つのプロジェクトが終わった後にノウハウやスキルが社内に残らないという問題が起こり得ます。

 

とはいえ、DX人材として活躍するには、高度なスキルと経験が必要になります。そのため、最初の段階では外部のプロの人材に協力を仰ぐ必要もでてくるかもしれません。その場合には、そのスキルを社内で吸収できる体制を整えておくことが必須になります。

例えば以下の企業は社内DX人材育成を進めている企業としてWeb上で紹介されていたりするので、自社に合った育成方法の開発の参考にされてはいかがでしょうか。

 ヤマト運輸
 日清食品ホールディングス
 キリンホールディングス
 ダイキン工業