自社における個人情報取り扱いルールの見直しを
個人情報データベース等の不正提供で逮捕

毎熊 典子
慶應義塾大学法学部法律学科卒、特定社会保険労務士。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会評議員・認定講師・上級リスクコンサルタント、日本プライバシー認証機構認定プライバシーコンサルタント、東京商工会議所認定健康経営エキスパートアドバイザー、日本テレワーク協会会員。主な著書:「これからはじめる在宅勤務制度」中央経済社
2023/09/17
ニューノーマル時代の労務管理のポイント
毎熊 典子
慶應義塾大学法学部法律学科卒、特定社会保険労務士。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会評議員・認定講師・上級リスクコンサルタント、日本プライバシー認証機構認定プライバシーコンサルタント、東京商工会議所認定健康経営エキスパートアドバイザー、日本テレワーク協会会員。主な著書:「これからはじめる在宅勤務制度」中央経済社
転職先の同業他社に元の会社の名刺情報のデータベースを不正に提供した会社員が個人情報保護法違反容疑で逮捕されました。個人情報データベース等の不正提供容疑での逮捕は、全国初とのことです。
「個人情報データベース等」は、特定の個人情報をコンピュータを用いて検索することができるように体系的に構成した、個人情報を含む情報の集合物のことをいいます。コンピュータを用いていない場合であっても、紙面で処理した個人情報を一定の規則に従って整理・分類し、特定の個人情報を容易に検索することができるように目次、索引、符号等を付し、他人によっても容易に検索可能な状態に置いているものも個人情報データベース等に該当します。
個人情報取扱事業者若しくはその従業者又はこれらであった者が、その業務に関して取り扱った個人情報データベース等を自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用したときは、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。
出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
個人情報保護法違反で逮捕された会社員は、人材派遣会社に在職中に、名刺データ管理システムにログインする権限を有する同僚社員のI Dとパスワードを同業他社の社員とチャットアプリで共有し、その後、この同業他社に転職しました。転職先の企業では数万人分の名刺情報が閲覧できるようになっており、この名刺情報を使って成約した案件もあったようです。逮捕された会社員は容疑を認め、「転職後に営業活動に使えると思った」と供述しているとのことです。
営業情報の不正提供については、不正競争防止法の適用が考えられますが、同法を適用するには、不正提供された情報が「営業秘密」に該当することが要件とされ、秘密管理性、有用性、非公知性の3つの要件を満たすものであることが必要となります。
一方、名刺は、第三者に提供することを前提として作成され、そこに表示されている内容は、会社名、会社の住所、本人の氏名、肩書き、業務連絡用の電話番号やメールアドレスなどであり、秘密管理性や非公知性を満たすとは認められにくいといえます。
2014年に発生したベネッセコーポレーションの個人情報漏洩事件でも、派遣社員によって持ち出され、名簿業者に売られた顧客情報が、営業秘密に該当するか否かが裁判で争われました。個人情報データベース等は、この事件を契機として2015年の法改正で新設されました。これにより、営業秘密に該当しない個人情報データベース等の漏えいについても、個人情報保護法違反として罰則を課すことが可能となりました。
今回の事件は、名刺情報の不正提供について、全国で初めて個人情報保護法違反容疑で逮捕が行われた事案ですが、今後、このようなケースは増えていくものと思われます。
ニューノーマル時代の労務管理のポイントの他の記事
おすすめ記事
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方