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職場で発生する熱中症による死亡災害を踏まえ、令和7年6月1日に改正労働安全衛生規則が施行されました。事業主は、熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に、熱中症対策を職場で講じる義務を課せられました。

熱中症対策の義務化

今回の改正法施行で、事業者に義務付けられたのは以下になります。

1.熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に、
 ①「熱中症の自覚症状がある作業者」
 ②「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」がその旨を報告するための体制(連絡先や担当者)を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知すること。

 

2.熱中症を生ずるおそれのある作業を行う際に、
 ①作業からの離脱
 ②身体の冷却
 ③必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせること
 ④事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等
など、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置に関する内容や実施手順を事業場ごとにあらかじめ定め、関係作業者に対して周知すること。


出典:厚生労働省富山労働局「職場における熱中症対策の強化について(令和7年6月1日施行)」を一部改変

「熱中症を生じずるおそれのある作業」とは、WBGT28度又は気温31度以上の作業場で、継続して1時間以上または1日当たり4時間超えが見込まれる作業を指します。

画像を拡大 出典:「熱中症対策に関する企業の実態アンケート」(帝国データバンク)

事業者が上記の対策の実施を怠った場合、6月以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金が科される可能性があります。しかしながら、帝国データバンクが実施した調査によると、改正労働安全衛生規則による事業者の義務についての認知率は55.2%にとどまっており、「知らない」が26.3%になっています。また、業種別では、建設業では約8割が認知している一方で、製造業、運輸・倉庫業、サービス業、卸売業では5割程度、不動産業や小売業では4割前後となっており、業種間で認知率に差が生じています。

死亡の危険性が高い熱中症

熱中症対策が義務化されたのは、熱中症災害では死亡する割合が高いからです。厚生労働省の調べによると、他の災害と比較して約5~6倍になっています。なお、熱中症の死亡災害は2年連続で30人レベルとなっています。

熱中症による死亡災害のほとんどは、初期症状の放置や対応の遅れが原因です。熱中症で従業員を死亡させない、重篤化させないための対策に参考になるのが、厚生労働省の「職場における熱中症予防基本対策要項」や「STOP!熱中症クールワークキャンペーン実施要項」です。

画像を拡大 出典:厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」

「職場における熱中症予防基本対策要項」では、身体作業強度に応じたWBGT (暑さ指数)の基準値を示し、基準値を超えた際のWBGT自体の低減、または身体作業強度の低い作業への変更などを求めています。

基準値を超える場合の熱中症予防対策に、①作業環境管理(WBGT値の低減、休憩場所の整備等)、②作業管理(作業時間の短縮、暑熱順化、水分や塩分の摂取、服装、作業中の巡視)、③健康管理(健康診断結果に基づく対応、日常の健康管理、労働者の健康状態の確認、身体状況の確認等)、④労働衛生教育(熱中症の症状、予防方法、事例、緊急時の救急処置等の周知)を示し、実施を求めています。

画像を拡大 (環境省「熱中症予防情報サイト」)

環境省では令和7年は4月23日から、「暑さ指数(WBGT)予測値等電子情報提供サービス」を発信し、熱中症対策に取り組む事業者も活用できます。この情報を通じて日々の変化に応じた対策を検討できます。環境省の「熱中症予防情報サイト」には提供サービスの活用方も掲載しています。

画像を拡大 (環境省「熱中症予防情報サイト」)