2018/08/17
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
海でもライフジャケットは効果絶大!
今回は川をメインで書きましたが、海についても海上保安庁がわかりやすい新規資料を公開しました。

その中では、シュノーケリング中にライフジャケットなど浮力体を必ず着用するように記載されています。

また海では「助けてサイン」といって、手をふって救助を求めることが生存につながります。これについて、ライフジャケットなどの浮力体がない場合は、手をふることでかえって沈むことになっていくので、浮力体がない場合は、サインを送ってはいけないと書かれています。

「人間は、肺に空気が入っていれば基本的に水に浮き、肺に空気が入っていないと水に沈みます。肺に空気が入っている場合、最大で人体の約5%(淡水では最大約2%)が浮きます。」(Water Safety Guide/海上保安庁)
https://www6.kaiho.mlit.go.jp/info/marinesafety/00_totalsafety/06_swimming/11_attention.html
肺に空気があれば、淡水より浮きやすい海であってもライフジャケットの重要性が啓発されるようになっています。学校教育でも川のライフジャケット着用の啓発を避けてはいけないと思っていただければと思います。
最後に「教えてドクター」プロジェクトの佐久総合病院佐久医療センター小児科の坂本昌彦医長さんからのコメントをいただきました。「教えてドクター」は、災害時の赤ちゃんやこどもの話、そして今回紹介した溺水だけでなく、熱中症の啓発でもわかりやすいとニュースになっています。
どうしたらこのようにエビデンスベースで正確な情報をわかりやすく、そして、親にちゃんと寄り添った姿勢で啓発できるのかのヒントをいただければと思ってお聞きしました。
――― いつもわかりやすい情報ありがとうございます。教えてドクターに取り組まれた経緯を教えていただけますか?
坂本先生) 以前福島県の山間部で仕事をしていた当時の経験がベースになっています。その地域は神奈川県と同じ広さなのですが、当時私と妻の2人しか小児科医がいませんでした。
それでも保育園は13園あり、子どもたちはいます。お母さんやお父さんは深夜でも片道1時間半以上かけて、例えば熱が出たお子さんを僕らのところまで連れてきていました。
お母さんたちにホームケアや病院受診の目安などの知識をつけていただくことができれば子育て不安も軽減できると考え、冊子を作って、地域の保育所を巡回して出前講座を行いました。
その後佐久に移った後も、市や医師会の理解も得られたことから、当地域でも同様の活動を始め、イラストデザイナーとともに冊子を作成し、出前講座を行いました。また子育て世代はスマホ世代でもあるので、アプリを開発し、情報が届きやすくなるように工夫しました。
最近はSNSを通じて正しい情報を提供できるようにも心がけています。
――― 溺水の記事を作成するにあたり、これだけは伝えたいと思われた事や、実際の診療で感じられていることがあったら教えてください。
坂本先生) 今年4月に当地域で保育園に通う3000名の保育園児の親にアンケート調査を行いました。回答を得た2000名のうち、子が溺れかけた経験があると答えた親は820名(41%)に上りました。
子が溺れかけている経験を少なくない保護者が持っていることが分かります。また、その9割は自宅の浴槽でした。お風呂は危険だという認識を持っていただければと思います。
また、その8割は溺れた時に悲鳴や声は出さず、6割は音がほとんどしなかったと答えていました。隣の部屋にいても音でわかるから大丈夫ではないと知ってほしいと思います。それはプールや川・海遊びでも同じです。
また、水やお湯から引き上げた後、もし意識がなければ人を呼びつつ、呼吸と脈を確認し、なければ人工呼吸と心臓マッサージを始めなくてはいけません。この初期対応はその子の一生を左右します。
わが子を守るためにも、保護者が子どもの心肺蘇生法(BLS)を学ぶ機会が増えればと願っています。
――― 最後に抱負などあれば教えてください。
坂本先生) いつかアプリの外国語版(英語や中国語)が作れたらいいなと思っています。また、教えてドクターの活動は、将来的には医師の活動ではなく、地域の保護者の皆さん自身の活動として広がっていけばいいなと思います。
お互いに学びあい、教えあって、地域に根差した活動になり、医療者はそれをサポートする。そんな活動が続いていくのが目標です。
――― 坂本先生、お忙しいところインタビューにお答えいただきありがとうございました!2000人中820名(41%)もこどもの溺水経験があるというほど、溺水事故はいつ起こってもおかしくないのですね。家庭内はもちろん、これからの水辺の事故の啓発は教えてドクターみたいに正確で実効性のある啓蒙ができればいいなと思っています。
(了)
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』の他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方