2011/03/25
誌面情報 vol24
実は凄い訴訟社会!
世界の工場として先進諸国の製造業が進出する中国では、欠陥品や偽造品の問題が国内外で多発している。また、労働者問題なども頻繁に耳にすることから、中国の法制度は充分に整っていないのではないかと疑ってしまうことは少なくない。
ところが、中国の法規制に詳しい光和総合法律事務所の池内氏は「中国=法律がゆるい」という考え方は全く誤ったものとして注意を呼び掛ける。「法制度から見ると中国は、先進国と同等の水準にあります。毎年、日本を含む外資系企業や中国国内の企業を訴えるクレームや訴訟が後を絶ちません」(池内氏)。実際に、中国の法律は非常に厳しく、リコール法に関しては、中国国内で日本以上に日本車がリコールされているような状況だという。

弁護士の数で日中を比較してみても、日本の3万人に対し中国は16 万人以上で、日本を大きく上回っている。中国には、13 億人以上の人口を有しているが、1億総中流といわれる日本とは比較できないほど貧富の差が激しく、実際の弁護対象となるのは13億人のうちのほんの一握りの富裕層のため、弁護士の人口密度は、日本と同等、もしくはそれ以上だとする。中国政府は、今後もさらに弁護士を増やす方針を取っており、生存競争の激化が進むことで、より訴訟が多くなることが予想される。特に、法律について無知な外国企業は、訴訟の標的となりやすく、注意が必要だ。
■PL 法訴訟で日本企業が敗訴
池内氏は、中国で実際に起きた日本企業の訴訟の具体事例として、1996 年の福建省での大手日系自動車メーカーの損害賠償事件を紹介する。
この事件は、福建省の職員が日系自動車メーカーのジープ車を運転中に、フロントガラスが突然爆破し、爆震傷により死亡したことで、遺族が自動車メーカーに対して50 万元(約620万円 1 元/12.4 円換算)の賠償を求めた訴訟。結果として、日系自動車が敗訴となった。
一審では、フロントガラスの爆破に関して、原告側に事実根拠および法律根拠がないことを理由に損害賠償の訴訟請求を棄却したもの
の、二審では、一審で自動車メーカー側が提出したフロントガラスの鑑定結果が法定の鑑定機構のものでないことを理由に却下し、新たに自動車メーカーに対して製造物の欠陥証明を要求した。自動車メーカーは、自社の製品に欠陥がなかったことが立証できず、賠償金を支払う結果となった。この判決は、最高人民法院公報にも掲載されているが、池内氏は、「PL 法に関する非常に重要な判決」と解説する。そもそも日本のPL 法では、消費者を守るという点においては、中国の法律と同様であるものの、被告側の企業に欠陥の立証責任を負わせることはない。池内氏は、「欠陥がなかったことを証明するということは、事故原因を特定することと同じで非常に難しく、企業が責任を逃れることはほとんど不可能。PL 訴訟のリスクから身を守るには、現在では保険をかけることくらいしか対策がない」と話す。ただし、そのような法律事例をあらかじめ知っているのと、知らないのとでは、当然、危機発生後の対応に大きな差が出ることになるだろう。

■保証が無効な外貨管理制度
日本企業が中国で頻繁に起こす訴訟トラブルとして2 つ目の例として挙げるのが契約問題だ。池内氏は、中国の契約についてこんな質問を出す。
「取引先の代金の支払いが遅れています。そこで、相手方企業と交渉して、親会社の印鑑のある保証書を入手しました。しかし、それでも支払いがないため、保証人である相手方の親会社に請求をしましたが、支払いを拒否されました。訴訟を提起するべきでしょうか?」。
当然、訴訟を提起すべきと思いきや、池内氏は、このケースでは保証が無効である可能性が高いという。その理由となるのが外貨管理制度だ。「中国では、外貨管理局の認可がない外国企業への保証は、無効となります。外国企業に保証を出す企業は、あらかじめ保証についての外貨管理局の認可を取る必要がありますが、この条件が非常に厳しく、外国企業への保証は非常に制限されております」(池内氏)。
一般的に、BRICs をはじめとする途上国では、外貨制限を行い、勝手に外貨を国外に出すことが許されていない。外貨管理をし、保有外貨を積むことで、自国経済の信用性を担保しているからだ。対外保証を自由に行わせると、この外貨制限の逸脱手段として使われる可能性があるので、許可を必要としている。中国は、現在世界一の外貨保有高を持っているが、未だに途上国の法制度を維持しているのだ。
■中国では倒産できない
日中間の企業トラブルの3つ目の例として、池内氏が挙げるのが倒産だ。
日本では、自己申立による倒産がほとんどであり、債権申立による倒産は1 割にも満たない。一方、中国では、企業破産法は存在するものの、大部分が債権者の手続きによる破産だという。その理由について池内氏は、「推測の範囲」とした上で、「自己破産を認めたら、借りるだけ借りて、あとは逃げてしまうような詐欺を働く企業があると想定されるからではないか」と説明する。
さらに、企業倒産法は、外資系企業にも自由に適用されるとは考えにくく、中国進出した日本企業の経営が悪化しても、法的倒産手続が利用できず、中国債権者に対する負債を返済した上で清算する以外、撤退することができない状況に陥ることも考えられるとする。
池内氏は「出口を考えないで中国に進出すると痛い目に合う。中国進出する際には、専門家に相談し、法的リスクを理解することが必要だ」と話している。
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