2024/08/24
防災・危機管理ニュース
東京電力福島第1原発の処理水放出から1年がたったが、一大輸出先の中国では日本産水産物の全面禁輸が続き、依存度の高いホタテ貝の業者らからは「もう耐えられない」との声が上がる。一方、風評被害がほとんど見られない地域もある。漁業者を「分断」するように格差が露呈しており、より丁寧な支援が求められる。
「国や東電、漁業者の努力や消費者の冷静な判断で風評被害は抑えられており、一安心だ」。福島県漁連の野崎哲会長は22日、いわき市で記者団にこう述べ、安堵(あんど)の表情を浮かべた。
処理水が直接地元の海に流れる福島県では懸念が特に強かったが、その一方で水産物を返礼品とするふるさと納税が急増。県の2023年度のふるさと納税額は前年度比44%増の88億6646万円と過去最高を更新した。
「常磐もの」と呼ばれる地元産水産物フェアも相次いで開かれ、全国的に応援の機運が高まった。県内で水産加工業を営む50代男性も「危惧していた取引への影響は無かった」と感謝する。
これに対し、ホタテ産地の状況は深刻だ。青森県では陸奥湾の海水温上昇で養殖ホタテが大量死する事態にも見舞われた。青森市の水産加工業「小田桐商事」の岩谷孝代表(70)は、「今も倉庫には数百トンの冷凍ホタテの在庫が積み上がっている。赤字覚悟で売っていくしかない」と話す。
台湾やインドなど販路開拓も進めるが、量をさばけるには至っていない。岩谷さんは「補償の交渉もしているが、1円も受け取っていない。今は自前で何とかしているが、もう耐えられない」とため息をつく。
中国が輸出の7割を占めた北海道では、昨年9月から今年6月までの輸出額がその前年の同じ時期と比べ5割超も減少。「中国の穴を補うにはまだまだ時間がかかる」(道幹部)のが実情だ。
東京電力ホールディングスによると、今月14日時点で処理水に絡み約570件の賠償請求があり、約190件、約320億円を支払った。福島県産品や国産ホタテなどを提供するイベントも国内外で計150回以上開催。秋本展秀常務執行役は「新たな風評を発生させないという決意の下、国産水産物の販路開拓や消費拡大、関係者への適切な賠償に取り組む」と話している。
〔写真説明〕取材に応じる小田桐商事の岩谷孝代表=20日、青森市
〔写真説明〕イベントで国産ホタテを振る舞う東京電力ホールディングスの社員ら=7月25日、東京都港区(同社提供)
(ニュース提供元:時事通信社)


防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方