2018/09/05
東京2020大会のリスク対策
交通需要マネジメントによる対策
東京オリンピック・パラリンピックの特徴は、選手村や競技会場、メディアセンターなどが、物流の拠点でもある臨海部や市街地に点在していることです。また、大会期間中は行楽シーズンであり、交通量と事故などが多い時期でもあるので、開催期間中は道路や鉄道などが渋滞、混雑すると予想されています。
選手や競技関係者、報道関係者は、大会関係施設や選手村、ホテルの間を頻繁に移動し、そのために必要な車両は1万台近くに上ります。その他のスタッフまで含めると車両数は約10倍に膨れあがります。さらにその何十倍もの観客が様々な交通手段で競技会場に向かいます。道路や鉄道の負荷はかなりのものです。計算上は、土日休日の空いている都心を平日のラッシュアワーなみの混雑状況に一変させるくらいのインパクトがあります。
対策を何も講じなければ、首都高速は方々で動かなくなると予想されています。東京都と組織委員会が発表した関係者の輸送ルートや観客ルートを中心に、大渋滞が起こることは必至です。
そこで内閣官房、東京都と組織委員会が中心となって、大会期間中、交通需要の抑制、分散、平準化を行う「交通需要マネジメント(TDM)」への参加を呼びかけることとしています。道路交通では、上記のルートを中心に平日に15%ほど交通量を減らすことが目標です。これによって平日の交通量は休日並みなり、大会関係車両が増えても交通量は通常の平日程度に抑えられ、渋滞の発生も許容範囲に収まると考えています。この「交通需要マネジメント」の推進に是非ご協力ください。
この「交通需要マネジメント」についてご留意いただきたいことが2つあります。1つは、このマネジメントの最大の目的は、逆説的ですが、大会の成功ではないことです。交通量の削減が不調となれば、大会関係車両を円滑に通すために大規模な交通規制が必要となります。高速入口の閉鎖や、一部路線を封鎖せざるを得なくなる可能性があります。厳しい交通規制の中で、大会はなんとか運営されたとしても、大渋滞が発生し、企業活動や市民生活に大きな支障が生じることが予想されます。つまり「交通需要マネジメント」とは、このようなリスクから企業活動や市民生活を守るためのものなのです。
渋滞のイメージとして、昨年の秋にトランプ大統領が来日したときの例を紹介しますが、例えば、休日の夕方、米国国務長官の車列を横田空軍基地から帝国ホテルまで通すため、圏央道から中央高速、首都高新宿線を規制した際には、圏央道の外側は30㎞以上の渋滞となっていました。また、迎賓館と帝国ホテルの間を大統領車列が移動する際には、首都高内環状を規制する必要があり、最大時にはその3分の1が渋滞となっていました。これはあくまで1つの車列についてですが、100人近い元首級の要人が訪れる東京大会では何十もの車列が行き交い、さらに大会関係車両が加わります。
開会式や閉会式に参加する選手や関係者はバスで輸送するのですが、用意される400~500台のバスを首都高上に一列に並べると、選手村から国立競技場までつながるほどの長さになります。
交通輸送のオペレーションは非常に厳しい見通しです。もし、「交通需要マネジメント」で交通量の削減ができなければ、各ルート周辺の一般道路全体で大渋滞が発生することは火を見るより明らかです。渋滞が信号から信号までつながると車は全く動かず、さらに渋滞が重なり広域的に道路は麻痺します。東日本大震災のときに都内の鉄道運行が乱れ、首都高が通行禁止になったことで発生した大渋滞が再現されかねません。
この夏から「交通需要マネジメント」への参加を幅広く呼びかけていきます。テレワークや時差出勤、フレックスタイムの導入、夏季休暇の取得促進などをどうかご検討ください。また、混雑が予想される道路については、輸送経路や調達方法の変更などご検討ください。
一人はみんなのために、みんなは一人のためにという気運の輪を広げたいと思っていますので、ご協力をお願い致します。
(了)
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