労作性熱中症とは、暑い中、筋肉運動を行うことで引き起こされる症状。筋肉運動が大量の熱を産生し、その産熱と体から放出される熱とのバランスが崩れて起こる。普通、人間の体は、熱い中で運動をしても、一定の体温以下になるよう自動調整が効くが、この調整が効かなくなると、自ら作り出した熱によって体がダメージを受けてしまう。

一方、非労作性は、長時間、暑熱環境に暴露されることで起きるもので、高齢者や小児が陥りやすい。連日の真夏日や熱帯夜などで蓄積した疲労により徐々に悪化し、さらに高齢者の場合、心疾患、糖尿病、脳梗塞など様々な基礎疾患を持っているため、熱中症かどうかの判断がわかりにくいこともあるという。

写真を拡大 (出典:「熱中症 防ぎ得た死」九州大学大学院助教准教授 永田高志氏著)

オリンピック期間中であれば、選手は労作性の熱中症になる可能性が高く、体を動かさない観客は非労作性の熱中症になることが懸念される。
どちらの熱中症かを見極めるかの1つの判断基準は体温。「重症の労作性熱中症の診断基準は核温の目安の一つである直腸温※で40.5℃以上」だと永田氏は説明する。(※直腸温:体の深部の温度で肛門から専用の温度計を挿入して計測する)

厄介なことに、同じ熱中症でも、労作性と非労作性では、その対処法は異なるという。労作性は、とにかく早く体を冷やすことが重要で、直腸温度が40.5℃以上なら、即冷却を開始しなくてはならない。具体的には、30分以内に直腸温度を39℃以下まで急速冷却をすることが生存率を高める上で必須条件になる。30分以内に39℃以下まで冷却できれば100%死亡はまぬがれるという。

一方、非労作性も40℃を超えている状態なら即冷却をする必要があるが、多くの場合、それほど体温が上がっていることはなく、その場合は、涼しい場所に移動して、冷たいタオルなどで冷却をして経過を観察する。いずれのケースでも、意識がなければ、すぐに救急車を呼び、自分で水が飲める状態なら水分補給を促す。ただし、労作性の場合は、救急車を呼ぶにしても、それより早く冷却を開始する「クール・ファースト、トランスファー・セカンド」が鉄則だという。

永田氏は、人間の体をソフトクリームに例え、人間は高体温に弱い生き物で「いったん溶けたソフトクリームが元の状態に戻れないように、人間も42℃を超えると細胞の代謝が停止し、その後人体のたんぱく質が変性してしまう」と説明する。

これだけ早く冷却するためには、冷たい氷水に体全体を浸す「氷水への全身浸漬」が最も有効で、アメリカでは、熱中症による死亡事故で、初動として適切な氷水浸漬を行わなかったとして裁判になっている事例もあるという。