2025/02/20
阪神・淡路大震災30年の光と影
現場対応を起点に従業員の自主性促すBCP

神戸から京都まで、2府1県で主要都市を結ぶ路線バスを運行する阪急バス(大阪府豊中市、三田和司取締役社長)。阪神・淡路大震災では、兵庫県芦屋市にある芦屋浜営業所で液状化が発生し、建物や車両も被害を受けた。路面状況が悪化している中、迂回しながら神戸市と西宮市を結ぶ路線を6日後の23日から再開。鉄道網が寸断し、地上輸送を担える交通機関はバスだけだった。それから30年を経て、運転手が自立して対応できるように努めている。
❶現場の対応を最優先にしたBCPを策定
・従業員が動ける具体的な行動を示したマニュアルとチェック表を「初動」「応急」「事業継続」のフェーズ別に作成。
❷従業員の的確な行動をうながす訓練の実施
・業務中に実施可能な、リアリティーの高い訓練を計画し、実行することで自立性を養う。
❸孤立して働く従業員をサポート
・避難用の地図や避難先までの写真ガイドを備え、災害時の行動を支援する
阪神・淡路大震災発生直後の対応

「大災害が発生しても、我々の役割は社員の安全と車両、運行管理の機能を維持すること。そして安全運行が可能と判断できれば、街の機能回復に向けて早期に運行を再開させること」と、バス運行会社としての使命を話すのは同社経営企画部と新モビリティ推進部の部長を兼任する北川孝司氏だ。
1995年1月17日早朝、芦屋浜営業所に勤務していた北川氏は神戸市内の自宅で就寝中だった。経験のない大きな揺れで起こされ、妻と子供を守るために覆いかぶさり、揺れがおさまるのを待った。その後、スキーウェアを防寒服代わりに着込み、バイクで営業所に向かった。
「山側から下っていくとマンションやビルの倒壊が見えてきました。もっと進むと阪神高速道路が横たわっていました」と振り返る。バイクの機動力を生かし営業所まで到達すると、地面がひび割れ、液状化が発生。マンホールが地面から飛び出していた。車両整備を担当していたため、バスを点検した。揺れが原因で、地面に固定されていた高さのある車止めが、バスの底を打ちつけて走行できないケースもあったという。
再開不能な阪急電車の代替輸送を1月18日から実施し、23日から神戸市の中心部である三宮と西宮市を結ぶ路線の運行を開始した。いつもなら1時間半ほどで到着する距離だが、4、5時間かけても到達できない。理由は大渋滞で、建物倒壊や路面状況の悪化により限られた通行可能な道路に車両が集中したためだ。神戸と大阪を東西に結ぶJR西日本と阪急電鉄、阪神電鉄が途絶したために物資の輸送や移動は車両がメインとなっていた。
瓦礫などを撤去して国道43号が開通した1月28日からは、近畿運輸局が主導して設けたバス専用レーンで代替輸送の一翼を担った。三宮と臨時に設けられた西宮北口などを結ぶこの路線には、子会社の阪急観光バスのほか、関西のバス協会からの応援も駆けつけた。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方