5月病の季節。リスク担当者から社員に伝えておきたいこととは(イメージ:写真AC)

企業のリスク担当責任者には、この季節になると、いわゆる「5月病」で不調に陥っている社員がいないか気にしている人が多いのではないでしょうか。

春は、就職や人事異動などで大きく生活環境が変わる時期です。その後ゴールデンウィークなどの連休を迎えることで緊張がゆるむこともあり、「気分が落ち込む」「やる気が出ない」などの心身の不調を総称して「5月病」と呼んでいます。今回は、職場のメンタルヘルスを考えます。

1.職場におけるメンタルヘルス対策の体系

国は、職場におけるメンタルヘルス対策として、次の3つを掲げています。

(1)一次予防:メンタルヘルス不調の未然防止対策

この段階では、まず社員のストレスマネジメント力を向上させることを目指します。具体的には、ストレスに関する正しい知識を得るとともに、自分自身でストレスを軽減するためにセルフケアの方法を研修などで学びます。

ストレスチェックを実施(イメージ:写真AC)

また、過重労働による健康被害を防止し、パワーハラスメント対策を講じるなど、職場環境の改善を行います。合わせて、ストレスチェック(※注1)などを実施することで、メンタルヘルス不調の未然防止の取り組みを強化します。

(※注1)労働安全衛生法が2015年12月1日に改正され、労働者数50人以上の企業ではストレスチェックの実施が義務付けられています。労働者数50人未満の企業についてのストレスチェックは現在、努力義務となっていますが、2025年3月14日、50人未満の小規模事業場でのストレスチェック義務化が盛り込まれた「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案」が閣議決定され、義務化の流れにあります。

(2)二次予防:メンタルヘルス不調の早期発見と適切な対応

社員がストレス軽減のためにセルフケアを行っていても、メンタルヘルス不調に陥る場合もあります。二次予防では、職場の上司や産業保健スタッフが早期に発見し、相談などの適切な対応を進めることになります。

(3)三次予防:職場復帰支援

三次予防では、メンタルヘルス不調に陥り、職場を離れざるを得なかった社員に対して、職場復帰支援プログラムを策定し、それを実施することになります。また、この段階では、主治医との連携が欠かせません。

2.「自分の変化に気づき、対応すること」が重要

「なんとなくやる気が出ない」あるいは「どうも調子がよくない」ということは、誰にでも起こりがちですが、その状態が続くと、生活の質が落ちる、あるいは仕事もいつも通りいかないということになりかねません。

職場の同僚や上司は気づかなくても「自分にはわかる、いつもとは違う」ということがあると思います。その違和感にいち早く気づき、セルフケアに結びつけることが大切です。

(1)自分が感じる違和感が大切

心と身体の変化は、さまざまな形であらわれます。周りの人が感じていなくても「なんとなくおかしい」「いつもと違う」という自分だけがわかる感覚を大切にすることが重要です。

1)心の変化
「理由は分からないけれど、何をしても楽しくない」あるいは「趣味や好きなことにも手がつかない」という感覚を持つようになります。また、漠然とした不安感や焦りを感じることもあります。

浸かれているのになかなか眠れない、目がさえてしまう(イメージ:写真AC)

2)身体の変化
身体は疲れているのに眠れない、また途中で目が覚めてしまう、あるいは起きた時に疲れが抜けていないということが起こります。好きな食べ物もおいしく感じない、また食べる量そのものが減るということもあります。さらに、胃腸の調子がよくないということも起こります。

3)行動の変化
心や身体の変化とともに、それが行動の変化となってあらわれることもあり得ます。例えば、起床時に調子がよくないので会社に行きたくない、また友だちから食事に誘われてもおっくうで断る、などの状態です。

(2)メンタルヘルスの不調は、なぜこの時期に起こりやすいか

気持ちの切り替えがうまくいかない状態が生じやすい季節(イメージ:写真AC)

1)仕事の環境が変わる時期である
人事異動や組織の変更などで、仕事の環境が変わります。同じ会社であっても、働く場所が変われば、通勤ルートが変わる、起床時間が変わるなど、生活パターンが変わります。また、新たに社会人となった場合は、学生生活から社会人生活になじむ必要があり、同僚や上司などとの関係構築も必要となります。

2)長期休暇明けで社会生活に戻れない
ゴールデンウィークに限らず、夏休みや正月休みなど長期休暇が明けると「お休みモード」から一気に「仕事モード」に切り替えることが必要ですが、気持ちや身体の切り替えがうまくいかないことがあります。この切り替えがうまくいかないという気持ちが「なんとなくやる気が出ない」「どうも調子がよくない」ということにつながります。

3)季節の変わり目も影響している
この季節は、普通に生活をしていても、天候が不順で、寒暖差も大きく、体調を崩しがちです。食欲が落ちる、朝起きにくいなどの身体の不調が、心の不調にも影響を与えます。